693人が本棚に入れています
本棚に追加
フロアにさりげなく飾られている、大きなアート作品の横を、百瀬と二人でならんで歩いた。虎ノ門にそびえ立つこのシンボルタワーの上層階は、結婚式場やバーがある。華やかな服装をした人々とすれ違い、彼女たちの笑い声を遠く背中の方で聞いた。
「すみませんでした……」
エントランスを出てからようやく、百瀬がちいさな声でそう呟いた。
「山崎リーダーにも連絡したし、今日もう俺らがやれることはないから」
「そう、ですよね……」
「あとは家帰って、旨いもんでも食べて寝ろ」
俺の言葉を聞いて、百瀬はようやく顔を上げた。
「あれ、滝本さん約束あるって言ってましたよね」
「あ、大丈夫。遅れるって連絡したから」
「……すみません~」
また泣き顔になった百瀬を嘘で宥め、虎ノ門で解散することにした。「彼女さんによろしくお伝えください」と何度も念を押され、今更否定もできず「はいはい」と適当に頷いてから、反対方向の電車に乗り込んでいく百瀬を見送った。
最初のコメントを投稿しよう!