ハローハロー・サタデー

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すぐにホームに来た電車に乗り込んだ。多くの人で込み合う車内で、腕時計を確認する。午後九時半。予定より随分遅くなってしまった。 銀座線から、日本橋で浅草線に乗り換える。電車に乗っているこの時間がもどかしい。 帰ってこない。そう思い、俺の部屋から出ていく彩葉を想像する。玄関の郵便受けに鍵を投げ入れ、押上の街からそっといなくなる彼女に、俺の手は届かない。 巻き戻るわけじゃないのに何度も時計を確認し、携帯電話の画面を点しては焦燥感を誤魔化した。 いつも通りのスピードで、電車は押上駅に到着した。ゆっくりと吐き出される人々の歩みが、なんだか今日はとてももどかしい。 混み合う駅構内を早足で抜け、階段を駆け上がって地上に出た。アスファルトを蹴って走り出す。どこからともなく漂ってきたコーヒーの苦い香りが、鼻を掠めた。
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