694人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
見つめた先にある彩葉の大きな瞳が、ゆらりと揺れてちいさく波打った。
何か言いかけて、戸惑うように唇を動かした後、目を伏せる。彼女の長い睫毛は、少しだけ濡れているような気がした。
「……本当にわたしでいいの?」
俯いたまま呟かれた言葉は、頼りなく繋がれた手元に落ちていく。
「もう28だし、充輝君より年上だし、なんの取り柄もないし」
「うん」
「洋食屋の娘だし、酒癖だって悪いし、性格もそんなに良くないし、それに……」
「彩葉」
自分の短所を弱々しく並べている彼女が、無性に愛しく思えて名前を呼んだ。
そんなの確認しなくたって、もう全部わかってる。
「彩葉がいい」
俺の言葉につられるみたいにして、彼女は視線を上げた。瞳の奥が大きく揺らいだかと思うと、何かを堪えているような苦しげな表情に変わった。
最初のコメントを投稿しよう!