二、手のひら一つ分のぬくもりで

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「我が君、明の元へ疾く参りたまえっ。我が魂を以て此の者に幸いをっ!」  無我夢中で神から与えられた真名を名乗る。  黒髪を肩まで垂らした少女が、唐突に私の横に並んだ。 『そなたの覚悟を、示すがよい』  私は、ツヅから短剣を引き抜くと、刃の向きをこちらに向けて柄を寝台に固定し、そこへ、身を打ち付けた。  それが見事首を割き、ホッとする。  そしてまた、ツヅの体に倒れていった為に、最期にツヅのぬくもりを感じて逝けることが嬉しい。  こんな器の小さい人間が皇帝を名乗っていたかと思うと今更嗤える。穏やかな幸福感の中で疼く不安は、ツヅのことなのか。それとも妹のことか。  『梅宮ぁ、花を摘みに参りましょう』  不意に、可愛らしい無邪気な声が耳の奥で響いた。  そしてまた、私を守ると宣言してくれた凛々しい姿を思い出す。  くすぐったく嬉しく、温かかった。 第二章 終わり     
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