背中に感じたぬくもり

5/13
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 しかし、この時点ですでに1年が過ぎてしまっていて、初動捜査のミスは隠しきれない状況だ。空き巣犯を捕まえさえすれば事件は解決と思っていたために、地取り捜査や証拠探しがおろそかになってしまっていた。警察内部の縄張り争いも発生していた。  問題はそれだけではなかった。発見当時の状況がマスコミにリークされてしまったのだ。  旦那さんと娘さんは合計で79ヵ所の刺し傷が有った。辺り一面血の海になっていただろう。旦那さんは背中から刺されている。状況的に娘さんをかばって後ろから刺されたのだろうと考えられていた。しかし致命傷になったのは、頭を殴られた事による頭蓋骨骨折だった。犯人は死んでから刺した事になる。怨恨の可能も出ていたのだ。  発見の状況もこの事件を難しくしてしまっている。  奥さんが第一発見者であるのは間違いないのだろうが、通報者は近所をジョギングしていた人だ。朝いつものジョギングコースを走っていて、窓ガラスが割れている事に気がついて、ふと覗き込むと、部屋を赤黒く染めている物と、奥さんが子供の亡骸を抱きしめて居る状態で外を眺めていたのだ。  警察が来るまで・・・いや、警察が来ても奥さんがその場を離れようとはしなかった。”寒い寒い”と繰り返すばかりだ。異様だったのはそれだけではなく、奥さんは体中に血を浴びていたのだ。後でわかったのだが、旦那さんの血を浴びていたようだ。     
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!