8人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「ああ、少し道なりに歩くと果樹試験場の看板があるから。その手前、左側に小さな石段があってね。それ登って行くとあるよ。登り口見落としやすいから左に気をつけて歩くんだよ」
教えられた通りに道を行くと、左手に苔むした石段を発見した。茂る木々の間、危うく見落とすところだった。幅が狭く傾斜がきつい。登ると結構、膝にくる。
今日子もここを登ったのか、と思うと心配が頭をもたげてきた。
最近の今日子は結構体調が悪い。何気無い風をよそってはいるがテレビを見ながら顔をしかめてよく下腹部をさすっていることに草介は気づいていた。それを指摘すると今日子は少し困った顔をすることも。いい加減続くようなら病院へ行くように強く言わなければ、と思っているうちにこんなことになってしまった。こんなこと……つまり「家出」されてしまった。
なぜ、今日子は自分に体調が悪いことを隠したがるのか。
なぜ、いきなり家出なのか。
そういえば、結婚と同時に仕事もやめてしまったことも疑問だ。
考えてみると、聞きたいことばかりだ。
三年間も一緒にいたのに。
俺は今日子さんのこと何も分かっていないじゃないか。
今日子さん、俺のこと好きですか。
俺はあなたのことが好きだよ。
俺を、置いていかないでよ。
俺から離れないでよ、今日子さん。
心の中の今日子への心配は、いつの間にか恨み節になった。
最初のコメントを投稿しよう!