私の大切なあなた

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 ため息をついて後ろ手に扉を締めて店を出る。と、店の反対側にトタン屋根の無人販売所があることに気がついた。床には青いプラスチック製のバケツが置かれ、菊の花束がいくつか入っていた。その隣の手作り感漂う木の棚に線香が並べられている。その隣にはジュースの自販機が設置されており、その脇に空き缶入れとゴミ箱が並んでいた。  鉄製の網でできたゴミ箱の中を除くtp、クシャリと丸められた紙袋らしきものが入っていた。取り出して広げると、丸に伊の字が印刷された紙袋。たい焼きの伊勢屋のものだ。この駅で降りた誰かが捨てたとも考えられる。でも……。 その時見つけた。 紙袋の口に青みがかったピンクの口紅の跡。 「今日子さんが最近よくつけている色……」  紙袋からたい焼きを覗かせてぱくつく今日子を想像してつい口元が緩んだ。今日子はがっつくあまり勢い余って紙袋までかじってしまうことがあるのだ。この紙袋の口紅の辺りも少しいびつにちぎれてしまっていた。  よく見れば無人販売の料金入れ用に柱にくくりつけられたコーヒーの瓶の中には百円玉が数枚入っていた。金額はちょうど花束と線香ひと束分だった。  今日子さん、やっぱりここに来ている。  予想しながらも、ふわふわとしていたものが確信に変わった。まだ自信なんてないけど。多分。きっとそう。 踵を返すと、先ほどの和菓子店に初老の女性が入ろうとしているところだった。すみません、と声をかけながら駆け寄ると、怪訝そうに見返された。 「この近くのお寺ってどこですか」     
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