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寺の境内の裏手に回ると墓が並んでいた。昔ながらの縦に長い長方形の石の群れの中に、いくつか洋風の墓石が混じっている。なんだこれ、墓場も近頃は和洋折衷なのか。
石の間に、見覚えのあるオレンジ色のサマーニットの背中が見えた。ふわりと立ち上がったかと思うとその体が傾いたので墓石を倒す勢いで駆け寄って抱きとめた。墓石の向こうは地面がなくなっていて眼下に果樹試験場だろう。低い苗木の並ぶ畑が広がっていた。
「……っぶないじゃないですか」
細い体を抱きしめて声を押し出すと、草介の腕の中で京子がぱちぱちと瞬きをした。
「あら、草さん? あー、見つかっちゃった」
「見つかったじゃないでしょ。俺がどれだけ心配したと思ってるんですか!」
両腕を掴んで声を張る。今までの人生で宗介は誰かに本気で怒るなんて経験がなかった。でも、今、無性に腹が立っていた。
もう、どうしようもなくこみ上げてくる憤りに声が震えた。
そんな草介の様子に目を見張った今日子がふにゃりと微笑んだ。嬉しくてたまらないといった風に。
「わっ、凄い。草さんが怒ってる」
喜んで手まで叩きそうな今日子の様子にそれまでの勢いを失って、草介はがくりと頭を垂れた。
何でこの人は嬉しそうな顔をするんだ。
「怒りますよ!」
言い訳が返ってくると思ったのに、今日子はしゅんと項垂れて、小さくごめんなさいと呟いた。
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