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草介は二人の足元に視線を向けた。さっきまで今日子が向かい合っていたつるりとした御影石。
「誰の墓、ですか?」
分かっているつもりだが、草介は一応聞いた。
「……行真さん。昔、結婚するはずだった人のお墓。きゃっ。何だか浮気を見つけられたような気分。やん、恥ずかしい」
身を縮こませた今日子の体を、草介はもう一度優しく抱きしめた。
洋風の墓の土台には、プラチナのリングが置かれていた。
「私、草さんに秘密がある」
「何ですか」
モジモジとする今日子を見下ろしていつもの無表情に戻った草介が器用に片眉を上げた。
「言わないと、本当に怒りますよ?」
腕の中で今日子が草介を見上げる。草介が無言で見返すと観念したように今日子がため息をついた。
これ、と言って目線で指輪を指し示す。
「行真さんにもらった婚約指輪。草さんと結婚してからも処分できないでいたの」
あとね、と今日子が続ける。
「実は、不妊治療してて」
「は?」
草介が目を剥いた。初耳だったからだ。
「そのう……結婚して三年も立つのに、全然ご無沙汰でも何でもないのに、子供が授からないのはきっと私が年寄りだからで……」
草介を見上げる瞳に、こんもりと涙が盛り上がる。そんな今日子を草介は息を詰めて見つめた。
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