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「私の体は子供が作れるようにできてるはずなのに、私の中で命はできないんだ。できないどころか死なせてる。私は、きっと生よりもしに近い存在なのかも」
今日子が苦い微笑みを唇にのせ、パチパチと瞬いた。涙が、今日子の目の縁で踏みとどまろうとしているかのように玉になっていた。
「そしたらさ、最近よく見るんだよねー。行真さんの夢を」
草介はキュッと眉根を寄せたが今日子を抱きしめた腕は緩めなかった。
「あ、これってまずいんじゃないって」
今日子が目を瞑ると、頬を涙が伝った。
「もしかして、呼ばれてる? なんて」
湿った声。おどけた口調で言う今日子の頭を草介がそっと撫でた。宗介の指が涙の跡をぬぐい消してゆく。今日子は草介の胸に手を置き、体を離した。踵を返して暮石に向かい合う。
「で、今日は行真さんに断りを入れに来たの」
「はあ?」
思わず聞き返した草介に涙を払って今日子が曇りのない笑顔を見せた。
「私は、草さんと一緒にいたいんだって」
じゃあ、と言って草介が強固に並ぶ。
「俺、きちんと言わなきゃ、だね」
小首を傾げた今日子の横、草介が暮石にひざまづいた。
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