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「行真さん。俺、神崎草介と言います。あなたの今日子さんは、今は俺の奥さんです。すごく好きです。多分あなたに負けないくらい。だからあなたに今日子さんは渡さない。俺と、今日子さんのこの先を見守ってください……お願いします」
こうべを垂れた草介の後ろで、今日子が泣いていた。
部屋に帰り着いた途端、二人は靴を脱ぐのももどかしく唇を重ねた。お互いの衣服を剥ぎ取りながらも連れ合い寝室にもつれ込む。行行為の後、穿たれた甘い余韻で体にもたれかかる今日子を草介は労わるようにその黒髪を梳いていた。激しく求めすぎたかもしれない。草介自身、昼間の疲れも出たのか体の内の熱を解放した喜びに酔ったようになっていて意識していないと今にも眠ってしまいそうだ。
「もう家出しないで」
頷く今日子の額に軽く唇を押し付ける。
ああ、でもまだ今日子さんに聞いていないことが。
「最近今日子さんが体調悪そうにしていたのって、不妊治療のせい?」
優しく聞くと、
「うん」
と気だるげな返事が帰ってきた。
「あまり無理しないで。俺は今日子さんがいてくれたら」
「私が欲しいんだ。だって、草介さんの子だよ。きっと可愛いよ!」
ガバリと顔を上げて力説する今日子に草介は苦笑で返した。
「とにかく、無理しないで」
そして小首を傾げて今日子に聞いた。
「あとさ、俺と結婚して仕事を辞めちゃったのは何でなの?」
今日子が頬を染めた。
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