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「だって、草さんに集中したかったんだもの。仕事で疲れてる場合じゃないと思ったの。子作りだって……」
その言葉に胸を射抜かれた草介は、再び今日子を求めてしまい、最後は声が枯れて出なくなるまでいじめ抜いてしまった。翌朝、先に目が覚めた今日子はそっと夫の額にかかる前髪を指ですくった。
心配してくれて嬉しかった。
行先も告げずに飛び出たのに、追いかけてきてくれたのには本当に驚いた。
ごめんなさい。
私だって、草さんのこと大好き。
私だって……。
ふと気づいてサイドテーブルの引き出しを開ける。やっぱりあった。一ヶ月前にもらった耳鼻科の薬袋。名前の部分には神崎草介と書かれている。草介さんてば、点耳薬を全然使ってなかったのね。
ニヤニヤ笑いが止まらない。思いついてしまったらやるしかないじゃない。
寝息を立てる草介の耳にそっと展示役の容器をあてがう。
点耳薬の容器に指で圧力をかける。
ポタリ、と薬が垂れる感覚。
うわあっと声をあげて、耳を抑え草介が飛び起きた。
これが本当の「寝耳に水」だあ。
豆鉄砲を食らったような草介の顔を見て今日子は満面の笑みを浮かべた。
うふっ。私だって、草さんの体のことが心配なんだから。草さんが大切なんだから。
「草さん、大好き」
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