私の大切なあなた

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 何か言おうとするのに、脳がすでにおやすみモードに切り替わってしまっていて言葉が出てこない。吐息を押し出すのが精一杯だった。後頭部を大きな手で包み込まれて優しくなでられるともう全てを委ねてしまいたくなる。 「草さん、耳……」  なんとか言うと草介の腕が今日子とソファの間に滑り込んだ。同時にふわっとした浮遊感。抱き上げられたのだ。 「うん、土曜日には病院、行くから」 耳元のささやきに頷きながら今日子は眠りの世界へと引き込まれて行った。 眩しいな……。 容赦無くまぶたの裏を照らされて草介は目を開けた。レースのカーテン越しでも眩しいほどの夏の日差しがベッドを照らしていた。 「あ、病院……」  嫌な予感とともに体を起こしメガネをかけて時計を確認する。  すでに昼過ぎ。今更行っても病院の受付時間はとうに終わってしまっている。草介は額に手を当て低く唸った。そういえば今日子さんはどうしたのだろう。ベッドの隣の温もりはすでにない。買い物にでも出かけたのだろうか。昨夜は随分耳のことを気にしていたから、いつまでも起きない自分に腹を立てたに違いない。遅くまでレポートを書いていたせいだ。気まずく思いながらリビングに行くとテーブルに紙が一枚置かれていた。  ??ちょっと家出します。帰ってくるから。心配してくれたら嬉しいけど、心配しないで。 「は?」     
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