私の大切なあなた

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「うちの奥さん、今日来ませんでしたか」  五十代半ばに見える店主が片眉を上げて草介を見、軽く頷いた。来たと言いたいのだろう。草介も無口な方だが、ここの店主は徹底して喋らない。代わりにレジに立っていたバイトの女の子が、今日子につきあわされてちょくちょく来店する(大抵今日子の後ろにただ立っているだけなのだが)草介を見知っているのだろう、教えてくれた。 「あっ、今日子さんですかあ? 三十分くらい前に、たい焼き三つ買って行かれましたよ。そのまま駅へ入って行ったけど。旦那さんイケメンですよねえ。あら、一人で出かけた奥様を心配して探してる? 優しーい。熱々ですねえ。良いなあ……あんこみたいに甘い生活私もしてみたい……って言うか、うちの餡はお二人ほど甘くないですけど、ほどほどにちょうど良い甘さですから男性の方でもペロリといけますよ。どうです、買っていかれますう?」     
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