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じいちゃんが住む村
昔っから、じいちゃんの家に行くのは嫌だった。
自宅から電車だのバスだのを乗り継ぐことほぼ一日。
やっと辿り着いたその家には、子供が楽しめるようなゲームも漫画も何もない。
子供は風の子、外で遊ぶのが何より…なんて考えは古すぎる。こんな田舎ですらきっと通じないだろう。
それでもじいちゃんの家に泊まると、朝は夜明けと同時くらいに起こされた。
まず、近所の神社にお参りをさせられる。その際、社の後ろに置かれたでっかい石にまで頭を下げさせられた。
これがすんだら散歩と称して近所一帯を引きずり回され、見知らぬ人達に挨拶をすることを強要される。そしていったん家に帰り、朝食の後、虫取りだのかけっこだのと、まったく興味の湧かない外遊び…いや、課外授業じみたことをさせられた。
年に数度のこととはいえ、この苦行でしかない田舎参りは、俺が中学を卒業するまで続けさせられた。
そんなじいちゃんの家を数年ぶりに訪ねた。
宅配では失礼だから、直接届けるよう親に言われた品を持って来ただけ。でも片道ですらかなりの距離だから、今夜はじいちゃんの家に泊まることになるだろう。
さすがに俺ももう子供じゃないから、昔みたいに虫取りだの外遊びだのは強要されないだろうけれど、過去の記憶が甦って、あの家には足を向けることすら気が重い。
そんな気分でのたのた道を歩いていたら、田舎町ではそうそうお目にかかれない高そうな外車が寄ってきた。
窓が開き、運転手が道を尋ねてくる。俺は土地の人間ではないけれど、この辺りは昔から全然変わってないから、その人に聞かれた道順程度ならたやすく説明することができた。
車が行き過ぎて間もなく、バス停を降りて初めての村人に出くわした。
やたらと俺を見てくる視線が何だが怖くて、精一杯の愛想笑い浮かべたら、ふいに相手が俺の名前を口にした。
「あんた、〇〇さんとこの孫の、××ちゃんかい?」
「あ、はい、そうです」
「いやーー、あの子か。大きくなったねぇ」
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