じいちゃんが住む村

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 数年前に数回会っただけの、普段は遠く離れた土地に住んでいる人なんて、俺にはまったく覚えはない。でも向こうは子供の頃に会っただけの俺のことを覚えていて、やたらと親し気に話しかけ、ゆっくりしていきなさいと言った。  都会じゃ考えられないな、この対応は。  実家でも一応近所づきあいはあるけれど、基本的にちょっと挨拶をする程度。長く話したりとかはほとんどない。俺が興味がなさすぎるだけかもしれないけれど、近所の子供の顔なんて、よっぽど毎日見続けなければ覚えたりはしない。ましてやその子が大人になり、数年ぶりに目の前に現れたとして、相手が誰であるかは判別なんてできっこない。  それでもここの人達は、最初こそ怪訝な顔で俺を見てくるが、すぐに俺の素性を特定するのだ。  十年近く経っても地形が変わった様子がないのだ、人の出入りもこの村にはあまりなく、だから、年数回でもそれが自分の家の客でなくても、よそから来た人間が珍しくて顔を覚えたりするのだろう。  田舎はそんなものかと思いながら、その後も、何度となく村の人達に声をかけられ、じいちゃんの孫だと判明して歓迎されながら、俺はようやくじいちやんの家に辿り着いた。 「じいちゃん、久しぶり。これ、電話で知らせが入ってると思うけど、届け物」  玄関先でじいちゃんに挨拶をし、届け物は自分で持ったまま、俺はじいちゃんの家に上がり込んだ。  ばあちゃんは俺が中学を卒業する少し前に亡くなっていて、そこからじいちゃんはずっとここで一人暮らしをしている。  心配なこともなくはないけれど、本人はすこぶる元気だし、ご近所さんとの折り合いもいいから心配するなと、親父が電話でよく聞かされているようだ。  届け物を仏間に置き、ぱちあゃんの位牌に手を合わせる。  これで俺の役目は終了。とはいえもう日は暮れていて、当然今から帰ることは不可能だ。 「腹減ったろう。飯、できてるぞ」  言われるまま食卓に向かう。  一人暮らしも長いから、それなりに家事はできるだろうと思っていたけど、じいちゃんの料理の腕前はかなりのものだった。
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