じいちゃんが住む村

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 見た感じは素朴な田舎料理だけれど、味はどれも美味い。それを褒めたら、土地がよくて作物の出来がいいから美味い飯が作れるのだとじいちゃんは答えた。  そうえいばじいちゃんて、生まれてからずっとこの村で育ち、外には出たことがないって聞いたことがある。それだけ村に愛着と誇りがあるんだろうな。  作ってもらたのだから当然と、片づけをしているうちに、じいちゃんは風呂を沸かしてくれた。それに入り、布団を敷いてもらった部屋に通されると、長旅の疲れが襲ってきて、俺はたちまち眠りについた。  夜中に目覚めることなく、朝まで何時間も眠り続けた俺が目を覚ました時、家にじいちゃんの姿はなかった。  たっぷり眠ったつもりだが、自宅での帰宅時間より三時間ばかり早い。  夜が早かったせいもあるだろうけれど、もしかしたらこの家に来ると、早起きしてしまう癖がついてしまっているのだろうか。  家の中を探してみたが、じいちゃんの姿はない。夏場なのでもう外はほの明るいから、畑にでも出かけているのだろうか。七十をとうに超えているのに元気だよな。  起きてしまうともう寝られない。昔のように散歩にでも行こうか。だけど鍵の在処が判らない状態だから戸締りができない。  村中知り合いで、今更泥棒になんか入る気も起きない。  ふと、昔じいちゃんが言っていたことを思い出し、少し悩んだ後、俺は不用心は承知で家の外へ出た。  まずは神社にお参り。これが一番最初にすることだったよな。  かつて通った散歩のルートを思い出すままに、朝もやが薄く広がる道を行く。するともやの中に、数年経っても忘れない、ちょっと特徴的な鳥居が見えた。  ここの鳥居、横棒が四本あるんだよな。  よそで見たことのない形の鳥居。何か特別な神様でも祀っているんだろうか。  そういえば、昨日道を尋ねてきた車の人は、この神社が目的地だったっけ。  運転していたのは結構年配の、見るからに頭のよそうな印象の人だったから、どこかの大学の先生で、民俗学の研究とかをしているのかもしれない。
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