じいちゃんが住む村

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 そんなことを考えながら歩いていると、神社の脇に昨日の車が停まっているのが見えた。  間違いない。昨日の高級そうな外車だ。  人のことは言えないけれど、こんな朝っぱらから神社に来るなんて、やっばり研究とかであれこれ調べてるのかな。  何となく気になり、俺は境内に足を踏み入れた。  記憶のままの、古く小さな社がある。でもその近辺に人影はない。  ジロジロ中を覗いた訳じゃないけれど、車には、運転していた男性と、後部座席に二人程同乗者がいた筈だ。もし研究目的なら、三人でここを訪れているに違いない。でも境内には人のいる気配がしない。  たまたま神社の側に車を停めただけで、当人達はこには来ていないのだろうか。  知り合いでも何でもない、たまたま道を聞かれただけの人達だ。その人達が神社に来ているのかどうかなんて、知る必要は俺にはない。でもどうしてかやたらと気になり、俺は社の裏にある大きな岩の方へ足を向けた。  この岩も昔のままだ。ちょっと尖った先端の方にしめ縄が結わえられていて…あれ? 縄が解けてる。  子供の頃に見た時は、あの縄はいつもきっちり岩に結びつけられていた。でも今は結び目が解けて垂れ下がっている。  確か、この岩は神社の御神体だとか何とかじいちゃんは言っていた。だから村中で気にかけて、朝晩誰かしらが必ず見回り、とても大切にしてるって。  結び目が解けた状態で放置なんてありえない。ということは、村の人が見回りを済ませた後に誰かが縄を解いたということになる。  昨日の人達が研究目的でしめ縄を解いた? でもそれならあの人達はここに今もいる筈だ。  もう一度辺りを窺いながら岩に近づく。と、鉄が磁石に吸いつけられるような抗いがたい力に引きずられ、俺はつんのめるように岩の側へと引き寄せられた。  後ずさろうとしても足がいうことを聞かない。体はどんどん岩へと近づく。 「…け、て」  ふと、どこからか絞り出すような声が聞こえた。でも周囲に人なんていない。ろくに後ろを見ることもできないけれど、誰もいないことは判る。
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