じいちゃんが住む村

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「…助…て」  再度声が聞こえた。…目の前にある岩の中から。  岩の中から声がするなんてありえない。でも確かに声はそちらから聞こえた。  何が起こっているのか判らない。  俺は岩の方に引き寄せられ、その岩からは助けを求める声がする。  普通に考えたらありえないことばかりだ。でも声は確かに聞こえたし、俺は逃げられないままどんどん岩に近づいている。もう、体が当たりそうな位置にまできてしまっている。 「待って下さい!」  背後から大きな声が響いた。  凄い速さで俺の傍らに誰かが駆け寄り、強く両肩を掴んだ。 「この村に住む〇〇です! この子は私の孫です! 幼い頃、主様の元へも何度も顔を見せ、頭を下げてきた者です!」  俺に駆け寄ったのはじいちゃんだった。自分の名前を叫び、俺の頭を岩に向かって下げさせながら、何やらよく判らないことを口走る。  だけどじいちゃんがそう告げた途端、あれ程強く俺を引き寄せていた何かの力はふいと消えた。 「ありがとうございます」  岩に向かってじいちゃんは大きく頭を下げ、もう一度俺にも頭を下げさせた。そして俺の肩を強く抱き、引きずるように岩の側を離れた。その勢いに飲まれるまま、俺はじいちゃんの家に戻った。  聞きたいことが山程ある。でも何一つ言葉にならない。 「昨日はわざわざ来てくれてありがとうな。帰るのにも時間がかかる。朝飯食ったら家に帰れ」  その言葉に、俺はうなずくしかできなかった。  帰りは、バス停までじいちゃんが俺を送ってくれた。その道のりはやけに遠かったけれど、理由は何となく察しがついた。  神社が見えず、村の人にも会うことのないルート。それを選んでじいちゃんは俺を送ってくれた気がする。  バスが来るまで二人でバス停にいた。その間は何も喋らなかったけれど、バスが見えた瞬間、ふいにじいちゃんは口を開いた。 「もう、この村には来るなよ。神社のことも忘れろ」  そう言い残し、じいちゃんは俺に背を向けた。その、何も問うなと言わんばかりの態度に従い、俺は無言でバスに乗った。
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