鳴き始めた蝉を呪う

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朝礼が行われている体育館の端に並んでいる先生たちの中に十条先生がいた。私が先生を探してたどり着いた先で目があった。もしかして、題名が発表されてからずっとこっちを見ていたのかもしれない。思わず目を背けてしまった。 先生は気づいているんだろう。田中君にバレてしまったことに。 けたたましい蝉の声に耳を塞ぎたくなりながらも夏休みに入る終業式前の日曜日に公園で待ちわびてる私に彼が現れた。 「嘘つき」 出会い頭の言葉に怖気ずいて田中君は後ずさった。 「怒ってる?」 そう訊く田中君にさらに苛立ちがつのった。 「言わないそぶりを見せて言ってる」 怒り心頭の私に田中君はペコペコと頭を下げた。ドラマで観た営業マンの様だった。 「言ってはいない。口では言ってない」 「はあ、意味わかんないですけど」 田中君の言い訳に苛立っていたけどそれよりも陽射しにぐったりとしていた。 「暑い」 私のつぶやきに田中君は敏感に反応していた。 「こんなところあったんだ」 公園から少し入った時にカフェがあった。結構おしゃれっぽいカフェだ。こんな住宅街でやっていけるんだろうかと思ったが、それはともかく勇み足で中に入る。蝉の喧騒は遮られ冷房のきいた空間にさっきまでの苦行が癒される様だった。 早速席に座りメニューを見る。愛しのチョコレートパフェを見つけてすぐに注文する。田中君は無難にアイスコーヒーを頼んだ。 私はパフェに夢中で田中君は来たアイスコーヒーに手をつけることなく、固まっていた。氷が汗をかいて崩れていた。 「薄まるよ」 「え」 「アイスコーヒー、氷が溶けてる。薄くなるでしょ」 田中君は恐縮しながら、アイスコーヒーに手を伸ばして一気に飲んでしまった。そのあと塞ぎ込んでる田中君を不思議に思ってしまった。 絵の題名に「弁当箱の女子生徒」とつけた目の前の人は私に当てつけたいのかと思っていた。 ただ、密かに想う人に弁当を届けるだけの私を責めて真っ当なスクールライフに勤しめと言うつもりだろうか。そんな風に思う私だったが、目の前の人は同じ普通の一高校生にしか見えなかった。
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