夏の休みの前に驚愕する

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楽しい時間を過ごした後に重大な事案が待っていた。力なく落とした鞄から取り出した白い封筒に歓喜と失意がないまぜになったこの心を誰が救ってくれるのだろうか。 「はあ、なに大げさに思ってんの」 そう呟いて白い封筒を見つめて躊躇している時に、家のチャイムが鳴った。親がでるはずだと思ってじっとしてる。チャイムはいつまでも鳴り止まなかった。あれと思って、玄関まで駆けつけた。扉を開けると同じ学校の制服を着た女子生徒がいた。 「回覧板でーす」 「どうも」 目を伏せて受け取る私に相手が声をかけてきた。 「あれー。千尋じゃん。おひさー」 中学生の時同じクラスだった佐藤夕子が笑って手を挙げていた。 「ほんとひさしぶりー」 佐藤さんが私の部屋を見渡している。 回覧板を受け取るだけでよかったはずなのに、佐藤さんを部屋まで招いてしまった。勉強机の上に置かれている白の封筒をどっかにしまわないとそう考えてた時、佐藤さんがそれに気づいてしまった。 「あれってもしかしてラブレター?」 「違うの」 私は必死に否定した。そんないいものじゃない。きっとそんなもんじゃない。 「うちのクラスにも千尋の話してる男子居たんだよ。千尋かわいいから」 佐藤さんは今は私の隣のクラスにいる。だけど、佐藤さんと話すことはほとんどなかった。こんな暗い人間がかわいいわけがない。 「コンクールで賞とった絵のモデルになったぐらいだしねー」 「あれは違うの」 あれは田中君が勝手に私をモデルにしただけだ。 「もしかして付き合ってるの?」 そう訊いてきた佐藤さんの顔を思わず睨んでしまった。 「誰と?」 佐藤さんはしまったという表情で口を手で抑えた。 「コンクールで賞とった男子と付き合ってるのかなって、もしかして違う人だったのかな。あの、封筒の人かな」 指差す先の白い封筒を見て、私は震えた。 「泣いているの」 佐藤さんが私の顔を覗き込んだ。ひるむ私に何を見たのか。 「お邪魔したね」 そう言って部屋から出て行った。私は玄関まで見送らずに勉強机にそっと置かれている白い封筒を見ていた。
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