夏の休みの前に驚愕する

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涙ぐんでいたまなこをそっと白いハンカチで拭うと白い封筒に手を伸ばした。勉強机の前に座る私の背すじは真っ直ぐになっていた。神聖なものに手を触れるような感じで封筒をこすると上品な音がする様な気がした。中から二枚の便箋ともう一つ袋が入っていた。袋の方は後で見ようと思い、折り曲げられた便箋を開く。無骨な外見に似合わない綺麗な字が並んでいる。誰かに代筆を頼んだのだろうかと思ったが、授業で書く先生の黒板の字も綺麗だったことに気づいた。そもそも先生が他の人に私のことを話すわけがないと確信している。 『拝啓。ずっと考えてきました』 最初の一文でまた、涙が出そうになった。ずっと考えてくれてたんだと思って続きを読んで驚愕した。 『あなたが私にお弁当を作ってくれる理由をずっと考えてきました。ですが、いまだに理由がわかりません。なにかお礼をしなければと思いつつ、なにも思い浮かばず、とにかく手紙でもとやっとの事で一文したためることにしました』 ここまで読んで、私の気持ちをなにもわかっていないのだと思って続きを読み進めた。 『直接言わなければいけない感謝の気持ちをこの手紙に託すことをお許しください。あなたを見かけるたびに何度も話しかけようと思いましたが、どういう言葉をかけていいのかわかりません。冷静になれない自分に驚くばかりです。あなたの健康を祈っています。新学期にまたお会いましょう』 一枚目がここで終わっていた。この一枚目をもう一度読んでみた。ほんとうに先生は私の気持ちがわかっていないのだろうか。考えがまとまらない中、二枚目の便箋をみた。 『PS ささやかながらお礼を同封しました。お受け取りください』 二枚目にはこれだけが書かれていた。 同封された封筒の中身を見て再び驚愕した。 一万円札が二枚入っていた。材料費だろう。大人なら当然の対応だが、私はそれを握りつぶしてゴミ箱に放り込みたい衝動に駆られた。 私の求めてるものはこういうのじゃないと叫びたかった。
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