未来を憂いながら空を見る

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未来を憂いながら空を見る

「大丈夫なのか」 お父さんが、おもむろに口を開いて、私は先生との関係がバレてしまったのかと思った 。 「受験生だろう。勉強はしてるのか」 そっちの方かと胸をなでおろす。 「予備校で夏期講習受けるから」 そう言うと、「そうか」と会話は終わった。 家からの坂を下り、駅に向かい電車に乗った。空いていたところに座り、冷房で体を冷ました。 室内で勉強している方が、楽なのかもしれない。朝子は夏期講習を受けることを拒否して、最後の高校生活を謳歌すると高らかに宣言していた。今頃、何をしてるのだろうか。 終業式にもらった通知表にお父さんは不満を漏らすことは無かったが、「受験は別だ」と釘を刺した。自分もそんなことはわかっていた。 「志望校はお父さんと同じところ」と言うと、「もっといいところにいけるだろ」と素っ気なく言われた。 「ああ言ってるけど、ほんとは嬉しいのよ」 お母さんがそっと私に耳打ちした。 予備校は大きくてよっぽど儲かるのかとどうでもいいことを思いながら教室に向かう。 教室も大きくて目の前の黒板は上下に二つあった。授業を受けてると埋まった黒板が上にスライドされて何も書いてない黒板が下にくる。そこに続きが書かれるのだ。 授業の時間が90分ということもあって、最後の方はあまり集中できなかった。 授業が終わると入ってきた職員らしき人が黒板を消す。講師が黒板を消すことはないのだ。 必死に黒板を消す十条先生を思い出した。書いた人が消さないシステムに疑問を抱いた。 コンビニで買ったガリガリ君をかじりながら考えた。将来、何になりたいかなんてわからない。とりあえず、わからないから、大学に行こうと思ってるのだ。大学に行ったら何か見つかるだろう。 それは先延ばしの発想だった。 ふと、先生のことを想った。先生の学生時代はどうだったのだろうか。 想像して胸を熱くした。 あの高い雲には到底手が届かないだろうと思った。
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