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高い雲に叫ぶ
夏休みに入り、高くなった雲を見上げながら、コンビニで買ったガリガリ君をペロペロと舐めた。
道路に浮かぶ蜃気楼が恨めしかった。
ミンミンとうるさい蝉を呪いながら、駅に向かった。朝子が夏だからと海で海水浴に行こうと提案したせいで、こんな苦行に見舞われている。
冷房の効いた部屋でどっぷりと怠惰を謳歌したい私だったが、親友の誘いは断れなかった。桜の日から朝子をないがしろにすることが多かった。引け目を感じていたし、朝子を失いたくないと思っていた。
駅前で大手を振る朝子に駆け寄った。ちょっと走っただけなのに額に汗が滴った。
「あっついよねー。死ぬわ」
そういう朝子に頷いて私はハンカチで額を拭った。
今日も雲が高い。夏の暑さは苦手だけど、夏の空は好きだと眺めている時に、彼女が駆け寄ってきた。
「え」
私は驚いて声をあげると、朝子が手を合わせた。
「黙ってて、ごめん。他の子も誘ってたんだ」
朝子と二人きりだと思っていた私は、混乱していた。あの日に家に招いた佐藤夕子がそこに立っていた。気まずく別れた彼女にどんな顔をしていいのかわからなかったが、彼女はあの時のことなど気にしてる風でもなく「遅れてごっめーん」と快活に現れた。
「千尋、この前はごめんねー」
謝る佐藤さんに「こちらこそ」と頭を下げた。
「なになにー。なんかあったのー」
朝子が首を突っ込んできた。
「この前絵のコンクールで賞とった男子いたじゃん。モデルが千尋だと思って付き合ってるのって言ったら、怒られちゃって。ほんとごめんね、千尋」
「私こそごめん、でも、怒っていたわけじゃなくて。でも、田中君とは何ともないの」
でも、でもと繰り返す私に朝子が「あっちゃー」って嘆いて額に手を当てた。相変わらずわかりやすいリアクションをする朝子を見て佐藤さんが笑った時に彼が現れた。
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