高い雲に叫ぶ

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「さっきから固まってたけど、やっぱり田中君誘ったのまずかったよね」 ホームを降りた時、朝子が囁いてきた。朝子は空気が読めて気遣いを忘れない。私には無いものを持っていてクラスでも人気者だ。それでいて私みたいなのにも心遣いを忘れない。そんな朝子を大事に思いつつ別の気持ちも芽生えてくるのだ。 朝子なら気兼ねなく先生に話しかけられてるだろう。無邪気で他愛もなくクラスの男子たちに話しかける様に気軽な感じで先生と近くに寄り添いられる。 握る拳に汗が滲んだ。でも、心を落ち着けないと、これ以上朝子を傷つけたくなかった。 海の家に併設されている更衣室でビキニの水着に着替える。ちょっとだけ出ている腹をそっとつねってみる。指を離した時ポヨンと音がしそうだった。 「やっぱり似合ってるよ。私の目に狂いはなかったね」 朝子が褒めると佐藤さんも私を見てうなずいた。恥ずかしくてすぐに上からTシャツを着た。 「そんなの着なくていいじゃん」って朝子は言ったが、お腹を隠したくて仕方なかった。 外で田中君がもじもじしながら私たちを待っていた。青色のトランクスの水着を着ている田中君の視線は、地面に向いていた。私の高校には水泳の授業が無いから、クラスの男子が女子の水着姿を見ることもないし、見られることもない。そう思うと急に羞恥心がこみ上げてきて、丸出しの下半身を両手で不器用に隠した。 「じゃじゃーん」 モデルの様な歩き方で朝子が現れた。その後ろで佐藤さんが吹き出しそうになってる。 「現役女子高校生の貴重な水着だよ。ちゃんと見ないでどうすんのよ」 恐縮してる田中君に朝子が追い打ちをかける。 「田中君色白いねえ。私より白いじゃん。今日はとことん焼いていかないとね」 そう言ってまた、モデル歩きで田中君の周りを一回りした。佐藤さんは堪えきれず吹き出していた。 私もほっこりとした気持ちで朝子を見ていた。場を和ませるのは朝子の得意分野だ。空気を読んでるからできることなのだ。 「田中君いきましょ」 私が声をかけると視線を落としたままでうなづいた。走り出していた朝子が「早くー」と手を振る中、大きな雲を見やる。陽射しが眩しくてこの季節に飲み込まれそうになっていた。
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