桜の日に出会う

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みんなが息をのむ中、教室の前扉が開いて、申し訳なさそうに入ってきた先生に落胆の声が上がった。女子生徒の大部分はため息で、男子生徒はなぜか安堵していた。女子生徒の中で少なからず歓喜の声が上がったのを私は見逃さなかった。 教壇に立って申し訳なさそうにぽりぽりと頬をかく先生の初印象はだらしないだった。 無精髭と寝癖のある長めの髪に猫背がボソボソとしゃべりだした。自分の名前を名乗っているらしい。みんなが聞いていないとわかると黒板にチョークで「十条かえで」と書いた。その瞬間、どっと笑いが起きた。 「にてなーい」 女子生徒の一人が言うと、次々に声が上がった。 「にてないよねー」 「偽名じゃなーい」 爆笑の中、先生は縮こまっていた。私はその時の先生にイラっとしていた。 「十条かえで」とは今人気爆発中の俳優である。私が知ってるくらいだから、相当有名人である。その有名人と同姓同名とはなんて不幸なことだろう。先生のことが少し不憫になった。 「あ、あの」 この騒ぎに先生は声を大きめの声を上げたが、喧騒はしばらく収まらなかった。 先生の自己紹介が終わった。担当は国語でクラブの担当はなぜか美術部だ。産休の先生が美術部だったのでそのまま引き継ぐことになったらしい。後、既婚らしい。どうでもよかった。 「絵心は全くないんですが」とぽりぽりと頬をかいていた。 初対面の印象はだらしないだった。
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