梅雨明けの日に見つかる

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梅雨明けの日に見つかる

テレビの天気予報士が梅雨明け宣言を知らせる中、今朝もお弁当を作る私にお母さんが近寄ってきた。 「やっぱり、唐揚げは鉄板よねえ」 「油使ってるんだから、近寄らないで」 お母さんを押しのけ、衣をつけてそっと油に浸す。黄金色の油に熱帯魚が吐き出すような泡が浮きあがる。 「ねえ、ちーちゃんって唐揚げそんなに好きじゃなかったよねえ。西京焼きとか魚料理の方が好きだったじゃない」 「西京焼きも好きだけど唐揚げも好きになったの」 思わず、強めに言ってしまってから、気づいてお母さんを見た。 お母さんは別段気にしてないようだった。ほっと胸を撫で下ろした。こんな風に辛くなる時がある。大したことしてないはずなのに後ろめたく思うことがある。 梅雨明けの朝に登校する。雲ひとつない空を眺めながら、味気ないなと思っていた。満天のブルーより、霧雲がかかっているぐらいがちょうどいい。そんなことを考えてるうちに学校に着いていた。いつものように美術準備室のロッカーに弁当箱を入れる。 任務を完了して敬礼さえしたくなった時、目があった。 「あの」 申し訳なさそうに立っている男子生徒を凝視してる私がいた。 「え」 唖然としてる私に「なにをして」と言葉足らずに問いかけられて、答えられずにいると置いてあるカンバスにこの男子生徒は手をかけた。 「自信作、なんだ」 そう言って私にその絵を見せてきた。前に見た女性の絵だった。完成した絵を見てなんだか不思議な気持ちになった。この絵のモデルが私みたいな錯覚に陥っていた。よく見ると右下に「テツ」と書かれていた。思い出した。同じクラスの田中哲也君だ。 口を開こうとした時、準備室から出ていかれそっと扉を閉められた。 見られた。しかも、ろくに言い訳も出来なかった。数学の問題よりも難解な問題に出くわしたような気分だった。
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