桜散る日に決意する

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桜散る日に決意する

桜散る早朝に先生を見つけて駆け寄った。眠そうな顔をして教職者には到底見えない。 私はカバンから出した四方系の箱を差し出した。 「これは」 そう尋ねる先生に私は答えた。 「弁当です」 先生は眠たそうな顔でそれをじっと見ていた。 「弁当です」 私が繰り返すと「へー」と先生は呟いた。 「どうぞ」というと「どうも」と受け取った。 「でも、生徒からこういうもの受け取っていいのかなあ」 そういう先生に私は提案した。 「明日からお昼までに美術準備室のロッカーに入れておきますから、取りに来てください」 先生は少し悩んでいるようだったが、黙ってうなずいた。 これでいいのだ。私は自分の気持ちに従って行動している。この決意は間違っていないのだと先生を後にしながら思った。 早起きするのが苦手だった私が5時半には目を覚ましお弁当の支度をする。お母さんが私の変わりようにお父さんに何か耳打ちしていたが、お父さんは首を横に振っていた。最初のお弁当の日には遠慮してか、両親は何も言ってこなかった。 次の日も気合を入れて起き上がり、お弁当を作り始めた時、お母さんがそっとそばに来て心配そうにきいてきた。 「ちーちゃん、大学行きたくないの?」 「え」 思いもよらないお母さんの言葉に唖然とした。 「だって、急にお弁当なんか作り出して、いつもは学食で食べるからってお母さんのお弁当もいらないって言ってるのに。もしかして、大学進学やめて料理人にでもなろうと考えてるんじゃないかって、昨日お父さんと話してたの」 「はは」 合点がいって笑えてきた。お父さんが首を横に振るのも当然だ。もっと普通の答えだってあるだろうにとまた笑えてきた。ウインナーと豚の生姜焼き、ブロッコリーにトマトとレタスが一切れ、こんな料理じゃ家庭科の授業レベルだ。料理人には到底及ばない。 「卵焼き入れないの?」 首を突っ込んでくるお母さんを人睨みして急いで卵焼きを作って女の私が持つにはちょっと大きめの弁当箱に詰める。駅前の雑貨屋で見つけたブルーの弁当箱だ。 そうしている間に6時半になって時間きっちりにお父さんが起きてきた。お父さんは区役所に勤めている公務員で私立とはいえそこそこの大学を出ている。公務員だからかわからないけど、時間をきっちり守る人だ。
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