もう天使ではいられない 4 マイナススタート

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「どうした?疲れたか?」 「いえ・・・」 「大学院は簡単には入れんから  勉強頑張れよ」 「・・・それより・・・お金が・・・」 「なんとでもなる」 「もうオジサンに迷惑・・・  かけたないし・・・」 尊オジサンは公園の脇に車を停めた。 「兄貴がなんか言うてたんか?」 「・・・なんとなく・・・でもこれ」 尊オジサンを見ずに運転席の膝に 銀行袋の20万を置いた。 「ちょっとでも、返そうと思て・・・」 お金の上に置いた手の甲に何かが落ちた。 「・・・オジサン?」 尊オジサンはポロポロと涙を溢してた。 「悪い、悪い。昔のこと、思い出した」 ティッシュペーパーを4、5枚 取って鼻をかんだ。 「俺も親が親類中から借金して・・・  大学いったからなあ・・・  それを知ったらもう大阪へ帰れんかった」 「・・・そうなん・・・?  ウチ、筋金入りの貧乏家系やな」 「ハハハハ、お前の親父、兄貴が  いつも金用意してくれたオジサンらに  気ぃ遣うてくれて。でも俺は  なんか気持ちがグレてもてなあ」 「・・・うん」 「夏実の家は筋金入りの名門で、  あいつの父親も婿養子。  家のお陰で学者を続けられた。  結婚するときに夏実が  『あるトコが出して勉強したい人は   するでいいじゃない?』って  笑いながら言うてくれて・・・  ちょっとずつ、心が軽くなった」 「ホンマモンの金持ちやな・・・」 「お前の学費についても 『あなたが恩を返せる日が来て嬉しい』  て、言うてくれてる」 「でも、」 「お前が『返したる』って勢いの  ある男になってくれて・・・  ホンマ、嬉しいわ」 尊オジサンはまた涙を手の甲で拭った。 「とにかくお前は親には知らん顔で  おってくれ。何れお前の世話に  俺らもなる日が来んとも限らん。  図太い心で一心不乱に勉強しろ!  それでエエんや!」 話はそれきりになった。 夜になって、 お酒の入った“おじいちゃま“と 尊オジサンが、『貧乏学生時代』を語って笑ってた。凛花は買って貰ったナンとか言うウサギの人形とカバンを何度も何度も 嬉しそうに見てる・・・。 「匡くん、大学院で東京へ来るなら、  ここに住みなさいね」 “おばあちゃま“に言われて俺は素直に 「ありがとうございます」 笑って言えた。
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