第6章 赤い薔薇と赤い瞳

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 日曜日の午後2時。  残暑と呼ぶにはまだ早く、連日の猛暑日だ。  元気な者でも倒れそうな日差しの中、ヨウヘイはサックスブルーのTシャツにネイビーの半袖シャツを羽織り、白い七分丈のクロップドパンツという気合いの入った服装で現れた。  普段着の黄色と白のボーダーTシャツに、カーキ色の短パン姿の僕とは大違いだ。  あからさまに緊張した様子のヨウヘイは、思い悩んだ挙げ句――よりによって見舞いの手土産に薔薇の花束を持ってきた。  蕾がひとつと開花した花が2輪、いずれも赤い薔薇だ。  ――プロポーズでもするつもりかよ。  花言葉に疎い僕でも、赤い薔薇の持つ意味は知っている。 「……お前さぁ、この花、花屋で何て言って買ったんだよ?」 「――えっ?! 『大切な人に渡したい』って言ったんだけど……」  『お見舞い』が抜けている。  只でさえ、緊張でコチコチのヨウヘイだ。デートで彼女にでも渡すと踏まれたんだろう。そりゃあ、花屋も薔薇を勧める訳だ。  夏美さんは、流石に大人だから誤解しないだろうが……僕は吹き出しそうになるのを必死に堪えた。 「――赤い花、ってのは不味かったかな?」  僕が微妙な顔をしたせいか、ヨウヘイは不安気に手にした花束を見た。  ……まったく。どこまでもズレてるんだよ、コイツは。 「いや……大丈夫だろ。病室じゃないんだし」 「そうかー! 良かった!」  問題は色じゃない。面倒になった僕は適当にあしらって、『早川』の表札下のインターホンを押した。  ――ピンポーン。 「……はい……?」  返事はすぐにあった。  インターホン越しに、聞こえた夏美さんの声は、突然の来客に戸惑っているとはいえ、確かに力ない。 「……と、突然伺ってすみません!」 「その声は、陽平君ね?」  彼女が目の前にいる訳でもないのに、ヨウヘイはピシッと背筋を伸ばした。 「はっ、はいっ!」 「……こんにちは、僕も来ました」  緊張感を和らげるべく、会話に横入りした。 「――マモル君? どうしたの、2人して?」  僕はヨウヘイをつつく。 「あ、あのっ! 夏美さんが、最近体調を崩されてると聞いたので――お見舞いに来ましたっ!」  沈黙――インターホンの向こうで、返答に困っているのか、すぐに言葉がない。
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