第2章 目的の始まり

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 妙な居心地の悪さを感じて、僕はノロノロと家の中に戻った。  机の前に座ったものの、集中力はすっかり萎えてしまい、問題集を片付けた。  『昔みたいに』――。  ふと漏れ出てしまった真実なのか、何かをはぐらかしたのか……不可解な呟きが、耳の奥に染み付いていた。 -*-*-*-  その夜。  親父と僕は、ナイターを観ていた。  母さんが風呂に入っているので、男2人切りのリビングは、さながらスタジアムだ。 「あーー! 何で打ち上げるかなぁ!」  絶好の先制チャンスを潰した5番打者に向かって、親父は声を上げた。  6回のウラが終わり、グラウンドが整備されている。この間に、地上波の放送では、スポンサーアナウンスに変わり、CMが流れていた。 「もう1本、ビール、いる?」 「お、気が利くな」  冷蔵庫から、追加の缶ビールとコーラを持って、ソファに戻る。 「……あのさ、親父」 「うん?」  唇に泡髭をつけて、親父が視線を向けてきた。  テレビでは、今夜の試合のハイライトが流れている。 「お隣って、僕が生まれた頃は、どんな人が住んでいたの?」 「何だ、突然?」 「今の早川さんの前は……秋吉(あきよし)さんだったけど、その前って? 覚えてないんだよな」  親父は腕組みして、眉間にちょっと皺を寄せた。 「秋吉さんの前な……お前が生まれた頃は、空き家だったんだ」 「えっ、そうなの?」 「ああ……その前は、清瀬(きよせ)さんっていうお爺さんとお婆さんが2人で住んでいたんだが、ある日突然居なくなってしまってな」 「どういうことさ? 引っ越したんじゃなくて?」 「あれは、違うな。家財道具全部残して、身体だけ消えたんだよ」  親父の表情から、からかっている訳ではないことは明らかだ。  我が家の身近にそんなミステリーが転がっていたとは……。 「ニュースにならなかったの?」 「なったさ。うちにも警察が来て、不審者を見なかったか、って色々聞かれたな」 「あら! あんた達、やけに静かね?」  母さんがバスタオルを頭に巻いたまま、リビングにやってきた。  ナイター観戦の時、僕達は勝敗に関わらず、いつも大騒ぎしている。テレビそっちのけで話し込んでいる雰囲気に、違和感を抱いたらしい。
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