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「マモルが変なことを聞くからな……」
「ちょっと気になっちゃって」
妙にバツが悪くなり、2人して言い訳をした。
「何よ、変なことって」
グラスに麦茶を注ぐと、母さんもソファにやってきた。
「隣な、秋吉さんの前に誰が住んでいたかってさ」
「……お父さん、清瀬さんのこと」
「話したさ」
母さんは、仕方ないというように首を振った。
「ねぇ――消えたって、どういうことさ?」
ご近所事情に関しては、母さんの方が遥かに詳しい。僕は視線を母さんに向けた。
「消えたのよ……ご近所に一言も挨拶しないで、黙ってね」
僕が生まれる前のことだ。今より地域の結びつきが強かったことは、想像に難くない。ご近所に一言もなく『居なくなった』ことは、相当な異常事態だったろう。
「家にあった物はどうしたのさ?」
母さんはちょっと考ながら、麦茶を飲んだ。
「確か……遠縁のお孫さんだとかっていう人が引き上げていったんじゃなかったかしら?」
親父がウンウンと頷いた。
「しばらくしてから『売家』になって、5年くらい経って秋吉さんが購入したんだよなぁ」
「そうそう! 不自然な立ち退き方だったから……どうしても噂が経っちゃって、なかなか買い手がつかなかったのよね」
「――噂って?」
話の盛り上りに水を差す質問だったのか、一瞬、両親は顔を見合せた。
「お隣に、新しい人が入ったんだから、ここだけの話にしなさいよ」
他人の耳があるはずもないのに、母さんは声を潜めた。
「……だから、何のことさ」
再度、両親は視線を交わした。敢えて触れなかった出来事を、仕方なく紐解くような躊躇いが見て取れた。
「――殺されたんじゃないかって」
「ええっ!」
「だから、噂だぞ」
「遺体は出なかったのよ、だけど警察が庭を掘り返したりしたものだから、噂になっちゃって、大変だったわ」
結果的に何事もなかったのだ――と、言外に2人は強調している。
当時を知らない子どもには、聞かれなければ封印しておくつもりだったのかもしれない。
「その庭って――花とか咲いていた?」
何か、予感めいたものが胸の奥から沸き上がる。ここまで聞いたら、確かめずにいられない。
「花? ――あぁ、そう言えば、何か一杯咲いてたわねぇ……」
「マモル、お前、急にどうしたんだ?」
親父が訝しむ。
僕は「そんな気がしただけ」と曖昧に答えた。
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