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梅雨明けと共に、7月に入った。
高校3年生、受験の夏がいよいよ加速する。
月末の期末考査の成績もさることながら、当面の目標は、全国模試でのA判定だ。
僕を含むクラスの数人は、模試前の7月から夏休みの間だけ、駅前の学習塾に通うことを決めていた。
「おい、マモルんちの隣、すっげー美人が独り暮らししてるんだって?」
クラスメイトのヨウヘイが、塾の帰り道、声を掛けてきた。
「何だよ、いきなり?」
「オレんち美容院だろ? 母ちゃんが、この前新しいお客さんが来たって話してて」
ああ、まただ。これだから、田舎は嫌なんだよな。新しいもの、珍しいものの話題は、千里を駆けるんだ。
「あー、早川さん? 確かに……美人かな」
「いやー、羨ましー! いや……目の毒、かな。でも、お前んちに見に行っていいか?」
「何だ、それ」
僕は苦笑いしながら、
「うちに来たって、お隣なんだから、会えないかもしれないだろ」
やんわり拒否してみる。
しかしヨウヘイは、引かなかった。
「明日、土曜日だろ? 塾の後、お前んち行っていいか? てゆうか、行くわ」
はっきり断ることもできたが、僕は押し切られてしまった。
薄暮の中、明らかに軽くなった足取りのヨウヘイの背中を、密かに呆れながら見送った。
-*-*-*-
ヨウヘイの強い想いは、幸運にも叶えられた。
翌日、我が家のリビングでオバ友会が開かれていたのだ。当然、夏美さんも参加している。
「――一緒に勉強するから」
そう言い置いて、お菓子と飲み物を取りにキッチンに入った。
ヨウヘイはリビングの入口で、お邪魔します、と礼儀正しく振る舞っていた。
ソファから会釈した夏美さんは、ライトデニムのシャツブラウスに白いスキニーパンツという爽やかなスタイルだった。
「――マモル、まじヤバイって!」
僕の部屋に入るなり、ヨウヘイがもの凄い勢いで迫ってきた。
後退りしたが、あっという間に壁に追い込まれた。
「な、何だよ?!」
「母ちゃんの話以上だっ! オレ、大学受かったら告るわ!」
力が抜ける。半年以上も先の宣言をされても、返答に困る。
「マモル、オレ達、友達だよな?」
「何だよ、薮から棒に」
元野球部のヨウヘイは、僕より5センチくらい背が高い。ちょっと見上げる態勢で、圧倒される。
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