第3章 ヨウヘイの恋

2/5
前へ
/140ページ
次へ
 梅雨明けと共に、7月に入った。  高校3年生、受験の夏がいよいよ加速する。  月末の期末考査の成績もさることながら、当面の目標は、全国模試でのA判定だ。  僕を含むクラスの数人は、模試前の7月から夏休みの間だけ、駅前の学習塾に通うことを決めていた。 「おい、マモルんちの隣、すっげー美人が独り暮らししてるんだって?」  クラスメイトのヨウヘイが、塾の帰り道、声を掛けてきた。 「何だよ、いきなり?」 「オレんち美容院だろ? 母ちゃんが、この前新しいお客さんが来たって話してて」  ああ、まただ。これだから、田舎は嫌なんだよな。新しいもの、珍しいものの話題は、千里を駆けるんだ。 「あー、早川さん? 確かに……美人かな」 「いやー、羨ましー! いや……目の毒、かな。でも、お前んちに見に行っていいか?」 「何だ、それ」  僕は苦笑いしながら、 「うちに来たって、お隣なんだから、会えないかもしれないだろ」  やんわり拒否してみる。  しかしヨウヘイは、引かなかった。 「明日、土曜日だろ? 塾の後、お前んち行っていいか? てゆうか、行くわ」  はっきり断ることもできたが、僕は押し切られてしまった。  薄暮の中、明らかに軽くなった足取りのヨウヘイの背中を、密かに呆れながら見送った。 -*-*-*-  ヨウヘイの強い想いは、幸運にも叶えられた。  翌日、我が家のリビングでオバ友会が開かれていたのだ。当然、夏美さんも参加している。 「――一緒に勉強するから」  そう言い置いて、お菓子と飲み物を取りにキッチンに入った。  ヨウヘイはリビングの入口で、お邪魔します、と礼儀正しく振る舞っていた。  ソファから会釈した夏美さんは、ライトデニムのシャツブラウスに白いスキニーパンツという爽やかなスタイルだった。 「――マモル、まじヤバイって!」  僕の部屋に入るなり、ヨウヘイがもの凄い勢いで迫ってきた。  後退りしたが、あっという間に壁に追い込まれた。 「な、何だよ?!」 「母ちゃんの話以上だっ! オレ、大学受かったら告るわ!」  力が抜ける。半年以上も先の宣言をされても、返答に困る。 「マモル、オレ達、友達だよな?」 「何だよ、薮から棒に」  元野球部のヨウヘイは、僕より5センチくらい背が高い。ちょっと見上げる態勢で、圧倒される。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加