第3章 ヨウヘイの恋

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「お前、彼女にホレてないよな?! 正直に言ってくれっ!」  正直なところ、夏美さんは素敵な人だと思う。綺麗で、可愛らしい一面もある。  でも――恋という感情ではないんじゃないだろうか。 「……まさか、お前……?」  すぐに答えない僕を見つめて、ヨウヘイの頬が強張った。 「いや、ホレてないよ。……イトコの姉ちゃんみたいな感じかな」  後半は、ヨウヘイを安心させるための嘘だ。イトコのヒカリ姉ちゃんと夏美さんは、全く違う。 「……良かった。距離は、お前に勝てねぇからな」  何だ、それ。  距離以外は、僕に勝てるってか? 失礼なヤツだ。  俄に苛っとしたが、口には出さないでおいた。 「ヨウヘイが告ろうが告るまいが、僕には関係ないって。まぁ……頑張ってよ」 「サンキュな、マモル!」  僕の皮肉は耳に入らないのか、ヨウヘイはホッとした表情で、壁から離れた。 「あー、オレ、絶対大学受かってやる!」  何度も繰り返して、ヨウヘイは帰って行った。  不純なモチベーションであっても、受験合格という本来の目的を果たすのであれば、良いのかもしれない。  ただ、夏美さんから見たら10歳以上も年下の『青い』高校生なんかを、相手にするんだろうか。  ヨウヘイの恋の成就は、酷く困難なハードルに思えた。 -*-*-*-  学習塾が主催した全国模試を受けた帰り、僕とヨウヘイは地元の神社に寄った。  模試の結果を祈りに――という訳でなく、何とすればヨウヘイが『恋守』を買いたいというので、付き合ったのだ。 「僕らが持つなら、『合格守』じゃないのか?」 「それは実力で勝ち取るから、神様の助けはいらない」  参拝を済ませて、社務所で買った御守りを財布に入れながら、ヨウヘイはきっぱり言い切った。  おいおい。彼女の気持ちを掴む方が、実力勝負じゃないのか?  どこかズレている友人の感覚に、苦笑いした。 「――あら、マモル君?」  背後から、声がかかる。振り向くと、夏美さんが立っていた。 「あ、夏美さん」 「こ、こんにちは!」  僕らは同時に答えた。不意討ちを食らったヨウヘイの声は、思い切り上ずった。
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