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「お前、彼女にホレてないよな?! 正直に言ってくれっ!」
正直なところ、夏美さんは素敵な人だと思う。綺麗で、可愛らしい一面もある。
でも――恋という感情ではないんじゃないだろうか。
「……まさか、お前……?」
すぐに答えない僕を見つめて、ヨウヘイの頬が強張った。
「いや、ホレてないよ。……イトコの姉ちゃんみたいな感じかな」
後半は、ヨウヘイを安心させるための嘘だ。イトコのヒカリ姉ちゃんと夏美さんは、全く違う。
「……良かった。距離は、お前に勝てねぇからな」
何だ、それ。
距離以外は、僕に勝てるってか? 失礼なヤツだ。
俄に苛っとしたが、口には出さないでおいた。
「ヨウヘイが告ろうが告るまいが、僕には関係ないって。まぁ……頑張ってよ」
「サンキュな、マモル!」
僕の皮肉は耳に入らないのか、ヨウヘイはホッとした表情で、壁から離れた。
「あー、オレ、絶対大学受かってやる!」
何度も繰り返して、ヨウヘイは帰って行った。
不純なモチベーションであっても、受験合格という本来の目的を果たすのであれば、良いのかもしれない。
ただ、夏美さんから見たら10歳以上も年下の『青い』高校生なんかを、相手にするんだろうか。
ヨウヘイの恋の成就は、酷く困難なハードルに思えた。
-*-*-*-
学習塾が主催した全国模試を受けた帰り、僕とヨウヘイは地元の神社に寄った。
模試の結果を祈りに――という訳でなく、何とすればヨウヘイが『恋守』を買いたいというので、付き合ったのだ。
「僕らが持つなら、『合格守』じゃないのか?」
「それは実力で勝ち取るから、神様の助けはいらない」
参拝を済ませて、社務所で買った御守りを財布に入れながら、ヨウヘイはきっぱり言い切った。
おいおい。彼女の気持ちを掴む方が、実力勝負じゃないのか?
どこかズレている友人の感覚に、苦笑いした。
「――あら、マモル君?」
背後から、声がかかる。振り向くと、夏美さんが立っていた。
「あ、夏美さん」
「こ、こんにちは!」
僕らは同時に答えた。不意討ちを食らったヨウヘイの声は、思い切り上ずった。
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