25人が本棚に入れています
本棚に追加
白いシャツブラウスに紺のスキニーパンツの夏美さんは、藤で編んだカゴ型のバッグと白い日傘を持っていた。
「こんにちは。ええと、君はこの前会った子ね?」
「はい! 加賀美陽平です!」
流石、元球児。ヨウヘイは、爽やかに白い歯を見せた。
「……加賀美? もしかして、美容院の息子さん?」
「はい! 前にうちに来ていただいたと聞いてます!」
「そうだったの。陽平君はお母さんに似て、ハキハキしてるのね」
「ありがとうございます!」
ヨウヘイの張り切り振りは、夏美さんに会えたからだ。
隣に立つ友人の目の輝きを見て、少しばかり羨ましさを覚えた。
「2人とも、ここには……合格祈願?」
「ええ、まぁ」
「はい!」
一瞬、ヨウヘイを見遣った。頬がやや赤いのは、日焼けした肌が隠してくれているが、至近距離の僕の目は騙せない。
「夏美さんは、何かお参りですか?」
ちょっとした友情から、話題をそらしてやろうとしたつもりだったのだが、
「おい、立ち入ったこと聞くなよ」
「……ってぇ」
大人振ったヨウヘイに、肘鉄を食らわされる羽目になった。
夏美さんは、そんな僕らのやり取りを眺め、クスクス笑った。
「私は――ちょっと気分転換。ここは、町が見渡せるから、お買い物のついでに寄ってみたの」
朱色の鳥居の向こうに広がる景色を指差した。
確かにこの神社は、町を見下ろすように、高台に鎮座している。
神社の裏手は、高台の住宅街に続いていて、枝道が分かりにくいものの、そこからやって来れば苦労はない。しかし、正面の鳥居をくぐって参拝しようとすれば、50段を越える石段が待ち構えているのだ。
「えー、石段ツラくなかったですか?」
そういえば、この石段は野球部の練習メニューだったっけ。
「大丈夫。裏から来たの」
夏美さんはふんわり表情を崩し、
「そろそろ夕方の特売の時間だから、行くわね」
と、手にした日傘をパンッと開いた。
「あ、はい」
「……あ、あのっ!」
数歩、鳥居に向かっていた夏美さんは、ヨウヘイを振り返る。
「あの……オレも、夏美さん、って呼んでいいですか?!」
まるで告白でもするみたいに、ヨウヘイは真っ赤に――今度は恐らく夏美さんにもバレたであろう――頬を染め、はっきりと気持ちを全身に乗せて、尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!