第4章 夏祭りの夜

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 期末考査の結果は、まあまあ悪くなかった。  劇的に成績が上がった訳ではないけれど、このままの偏差値をキープすれば、志望校合格も現実味を帯びてきた。  全国模試の結果が月末に郵送されてきて、志望校合格可能性が87%という予測値で、これも僕のエンジンを温めるには十分だった。  8月。  夏休み期間中は、10時から5時まで、学習塾の集中講座を受講した。  家と塾を行き来する単調な日々。  うだる暑さを回避した涼しい環境と、周りも自分も勉強しかすることがない状況に追い込まれたことは、元来マイペースの僕には向いていた。あれこれ『学習計画』なるスケジュールを、自分で管理しなくて良いところも有難かった。 「――なあ、マモル」 「うん?」  昼休み。塾の休憩室で弁当箱を開く。  母さんは夕飯の残りの焼肉を豪快に詰めていた。いわゆる『男めし』、スタミナ重視の茶色い弁当だ。 「帰り、夏祭り行くだろ?」  隣でコンビニの唐揚げ弁当を頬張るヨウヘイは、ポテトサラダをカップごと僕の弁当箱に移した。 「――玉子焼きも」 「ちぇっ、仕方ないな」  横暴な要求にも、素直に従った。つまり、ヨウヘイは夏祭りに付き合って欲しいのだ。  白と黄色で、僕の弁当箱が少し華やぐ。何より味のバリエーションが増えて嬉しい。 「お前、今日の内容、頭に入ってんの?」  早速、戦利品の玉子焼きを平らげる。うん、甘い。 「……うるせぇよ」  友人の狙いが、夏祭り会場で遭遇するだろう夏美さんなのは、火を見るより明らかだ。 「母さん、浴衣用意してたなー」  然り気無さを装おって、ポテトサラダをつつく。 「婦人会は、毎年浴衣だろ」 「そうじゃなくて。オバチャンの浴衣姿なんて、どうでもいいよ」  ニブイな、こいつ。 「――えっ?」 「ヒカリ姉ちゃんから浴衣借りてたんだ。多分、夏美さん用だな」  分かりやすく頬がニヤケる。鼻の下も伸びたかもしれない。 「……マモル、唐揚げもやる」 「おう」  僕は遠慮なく、一番大きな唐揚げをさらい、口に放り込んだ。  おかずが減ってしまった弁当を前に、けれどもヨウヘイは幸せそうだった。
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