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深い紺色に朝顔模様の浴衣には、見覚えがある。ヒカリ姉ちゃんが随分前に着ていたが、記憶の中のシルエットとは異なる。
夏美さんの色白な肌が浴衣の色に映えて、華奢な体つきが際立っている。クラスの女子達にはない、大人の女性のたおやかさに、僕まで息を飲んだ。
「――加賀美クンと嘉山じゃない?」
ドン、と背中をどつかれて、手にしていたフラッペを落としそうになる。
「……何だ、吉田か」
振り向くと、クラスの女子、元野球部マネージャーの吉田彩花が立っていた。
眼鏡顔はいつも通りだが、彼女も水色の浴衣姿で、裾と袖に金魚が泳いでいる。
「何だとは何よ。男2人でムサイわね」
「るせぇよ。お前こそ女独りか? 寂しいな」
「違うわよ。弟達が連れてけって煩くて」
彼女は小・中学校も一緒の幼なじみで、昔は僕のことを『マークン』なんて呼んでいたが、いつの頃からか『嘉山』なんてよそよそしく呼び捨てにする。
「チビ達、相変わらず元気だな」
射的のテントで騒いでいる凸凹コンビが彼女の弟達だ。
「もう『チビ』じゃないわよ。小6と中2。生意気で煩くて」
姉、というより母親の顔で、吉田は首を振った。
彼女の家は駅前で薬局をしている。小さい頃から、両親が店に出ている日中は弟達の世話を任されていた。吉田本人も、母親みたいな感覚なのだろう。
「あの女性――早川さん?」
僕らの視線を辿って、吉田は夏美さんを示した。
ヨウヘイが敏感に反応する。
「知ってるのか?」
「そりゃあ……」
言い掛けて、彼女は口籠る。チラ、とヨウヘイを見遣った。
「――美人の噂は早いから」
取って付けた妙な間に、僕は違和感を覚えたが、鈍感なヨウヘイは『美人』というワードにウンウンと納得している。
「噂って、どんな?」
代わりに僕が突っ込むと、吉田は眼鏡の奥の瞳を固くした。
――聞いてくれるな、はっきり拒絶した眼差し。
「噂は、噂よ」
フウン、とヨウヘイが気に止めなかったのを幸いに、僕もその話題に触れるのはやめた。
「ねぇちゃん、200円ちょうだい!」
凸凹コンビの下の凹――小6の和樹が吉田に向かって駆けて来た。
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