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「なぁ、マモル?」
「うん?」
「お見舞いって、何か持って行くよな? オレ、あんまり経験なくてさ」
ヨウヘイは、照れ臭そうに短髪の頭を掻いた。
昨年秋に野球部を引退したのに、いわゆる五分刈りの坊主頭を続けているのは、彼なりの合格祈願の願掛けだ。
「僕だって、そう何度も経験してないよ」
「定番は……花かな?」
「うーん、入院してる訳じゃないからなぁ」
こういう時、多分女子ならアイディアもあるだろう。
なんというか……女という生き物は、いざ非日常の事態が発生すると、思いもかけない能力を発揮するのだ。
その点、男の無骨さときたら。男は、経験を積まないと、咄嗟の対応が身に備わらないらしい。
「……オレさ、彼女から見たらガキだよな」
ふと、ヨウヘイは僕の目を覗き込む。真意が汲み取れず、ドキンとする。
「どうしたんだよ、急に」
「こういう時、スマートな気遣いってのが分かんねぇ自分が嫌んなるんだよ。もっと――大人だったら、あの祭りの夜も助けられたかもしれないのに」
ヨウヘイの瞳は真剣だった。本当に、夏美さんのことが好きなんだと、改めて思い知った。
「……背伸びしたって、僕らは高校生だから、仕方がないよ。あの夜、お前がどんなに気を利かせたって、かえってややこしいことになってたさ。10代の今だからこそ出来る『好きになり方』ってのがあるんじゃないのか?」
まだ真剣に誰かに恋していない、僕が言える精一杯のアドバイスだった。
ヨウヘイは、突然、机越しにガバと抱きついてきた。
「――な、何だよ?! 止めろって!」
「マモル、お前、やっぱりいい奴だなっ!!」
元・高校球児は、感動の表現が大袈裟だ。
僕らの友情は深まったようだが、休憩室内の注目――白い目を、一身に浴びてしまった。
ヨウヘイは、明日、花を持って夏美さん家を訪ねるから、僕にも同行して欲しいと懇願してきた。
夏美さんの様子が気になっていたので、渋々を装って、僕は承知した。
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