第6章 赤い薔薇と赤い瞳

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「突然で、すみません。迷惑でしたら――」 「ううん、迷惑ではないわ……。でも」  再び、沈黙――かと思うと、短い間を置いただけで、彼女は女性らしい言い訳をした。 「……でも、さっきまで横になっていたから、見せられる格好じゃなくて」 「それじゃ、一旦出直して来ましょうか」  具合が悪くても僕らを気遣う夏美さんに申し訳なくて、僕は独断で仕切り直しを提案した。  ヨウヘイが、あからさまに落胆した目付きで僕を見る。 「……待って。暑い中悪いんだけど、5分だけ待ってくれるかしら?」  少し落ち着いた、夏美さんの声。 「はいっ!!」  萎れかけたヨウヘイは、分かりやすく復活した。  それから5分も待たせずに、夏美さんは玄関に現れた。  白いTシャツに、ギンガムチェックのグレーのガウチョパンツ。全体的に風通しの良い、ゆったりとしたスタイルだ。  少しだけ濃い目のファンデーションは、本来の顔色を隠してのことに違いない。それでも母さんや近所のオバチャン達の厚化粧を見慣れている僕らには、透明感のある上品なメイクだった。 「散らかっているけど――どうぞ」  多分、僕らは2人して夏美さんに見惚れていたのだ。  手にしたお見舞いの品も渡さずに、玄関先に立ち尽くしていたので、夏美さんから招き入れてくれた。 「……あっ。すみません、お邪魔します」 「し、失礼します!」  まるで職員室に呼び出された生徒のように、ぎこちなく一礼して、ヨウヘイは敷居を跨いだ。  夏美さんの表情が、少し緩んだ。  リビングに通されて、男2人が小さなソファに並んで座る。  元々は古い家だが、焦げ茶色のフローリングの床は、秋吉さんが住んでいた頃に畳から張り直していた。  夏美さんは、フローリングの上に、6畳くらいのゴザ製ラグを敷いている。  エアコンはなく、部屋の中央近くで、大きめな扇風機が灯台みたいにゆっくり首を振っていた。  障子や襖も取り外したようで、風通しは良いが、何だかガランとした雰囲気だ。むしろ、リビングの隣のキッチンの方が、ダイニングテーブルや冷蔵庫やレンジが揃っているだけ生活感がある。 「ごめんなさいね、独り暮らしだから……家具が少なくて」  小さな白いローテーブルに、麦茶の入ったグラスを3つ置く。多分、クマのぬいぐるみがいたベランダから運んできたテーブルだ。
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