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「マモル君家みたいに、気の利いたものもなくて」
言いながら、彼女はテーブルセットのチェアに腰掛ける。ひじ掛けの間にちんまり収まっている彼女を見ると、あのクマが大きいものだと再認識した。
「いえ、かえってすみません。僕ら、お見舞いに来たのに。体調、大丈夫ですか?」
「心配かけて、ごめんなさい。暑さはちょっと弱くて……もう少し涼しくなれば元気になるわ」
自ら麦茶を一口飲んで、笑顔を作るが、どこか弱々しい。
「あ、夏美さん。これ、母さんが持ってけって」
お中元で届いたマスカットゼリーのお裾分けだ。
『食欲が無いときは、こんなのがいいのよ』
気取らずにコンビニのレジ袋に入れたのは、母さんなりの気遣いに思える。
「すみません。この前いただいたスイカのお礼もまだなのに」
「あー、気にしないでください。母さんは世話焼くのが好きなんで」
頭を下げる夏美さんに、僕はヒラヒラ手を振った。
「――あのっ!」
突然の大声に、僕も夏美さんもギョッとした。
緊張したヨウヘイは、ボリュームというものが壊れている。
僕らのやり取りの間中、どう割り込もうか迷っていたようだが――結果、会話に渋滞を引き起こした。
「……あの、夏美さん。オレも……これっ、お見舞いですっ!」
ヨウヘイは、ついに清水の舞台から飛び降りた。
ソファから立ち上がり、薔薇の花束を両手で差し出す様は、やっぱりプロポーズみたいだ。
彼は『半年後に告る』と言っていたが、やることは今と大して変わらない――と、隣で冷静に眺める僕だった。
「……ありがとう、陽平君。早速飾るわね」
目を丸くした夏美さんだったが、差し出した薔薇より真っ赤に俯くヨウヘイを優しく見上げ、『お見舞い』を受け取った。
夏美さんは、ゆっくり席を立ち、キッチンにゼリーと花束を持っていった。
「――座れよ」
直立不動の友人に囁く。
ヨウヘイは、僕の存在なんか忘れていたように、ハッとした表情で、まじまじと僕を見た。
「……何だよ」
「――いや……他言無用だからな」
「おう。貸し、2つな」
「1つだろ」
「付き合ったのが1つ。口止め1つ」
「――ちぇっ、分かったよ」
狭いソファでの下らない取り引き。
その間、夏美さんはキッチンで僕らに背を向けている――が、その肩が震えているように、見えた。
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