第7章 幼なじみの秘密

2/7

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
 帰宅した途端、キッチンから母さんが僕を呼んだ。 「マモル、アヤカちゃんから電話あったわよ!」  部屋に直行しかけていた足を、リビングに向ける。 「――え、アヤカって誰だよ?」  聞き慣れない名前に、記憶の検索が働かない。 「何言ってるの! 吉田薬局のアヤカちゃんよ!」  ――吉田……アイツか!  つい先日、夏祭りの夜に会った眼鏡顔が甦る。 「何の用だって?」 「知らないわよ。あんた、ちゃんと電話しなさいよ」  ――何で僕が……?  母さんとの間に女同士のよく分からない約束でも交わしたのか、とりあえず逆らわないことにした。  ローボードの隣にある電話器の前に行き、壁に貼られた町内会や商店街の電話番号リストから『吉田薬局』を探す。 「毎度ありがとうございます。吉田薬局です」  吉田のおばさんの明るい声が出る。 「こんにちは。嘉山です。さっき彩花さんから電話があったみたいなんですけど、いらっしゃいますか?」 「あら、マモル君! ちょっと待ってね、家の方に転送するから」 「はい」  薬局の店舗から、2階の自宅を呼び出す間、『グリーンスリーブス』が流れる。 「――はい、吉田です」  2回り目の途中で、吉田彩花が出た。 「嘉山だけど。何か用?」 「あ、嘉山。これから、出られる?」 「何だよ。電話じゃダメかよ」 「……駅前のマック。何か奢るから」 「あー別にいいけど、3時半くらいでいい?」 「ありがと。待ってる」  プツッ、と素っ気なく電話が切れる。 「――ちょっと出掛けてくる」 「はいはい。晩ごはんまでに戻るのよ」 「うん」  たまの塾の休みなのに、何だか今日は慌ただしい日だ。  夏美さん家の前を通りながら、この広い家の中で泣いているだろう彼女を思うと、ヨウヘイならずとも胸が痛む。 『優しくされる資格がない』  どうしてそんなふうに考えるのか――夏美さんが抱えている『何か』が何なのか、この時の僕には想像もつかなかった。 -*-*-*-  夕方近くとはいえ、まだ暑い。サッと汗ばんだ額をぬぐって、待ち合わせのマックに入る。  しっかり冷えた空気が心地良い。 「――嘉山、こっち!」
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加