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声がした方を見ると、クリーム色のボーダーTシャツの吉田が手を挙げている。
「やだ。違う服着てくるんだった」
言われてみれば、僕は黄色のボーダーTシャツ姿だ。
田舎のバカップルじゃあるまいし、ペアルックなんて冗談じゃない。
ましてや、コイツとなんて。
「……仕方ないだろ。で、何の用だよ」
「ちょっと待って。何か食べる?」
「いや……夕飯前だから」
「奢るわよ」
「じゃ、コーラ。Lな」
「了解」
吉田は、癖毛をフワッとまとめたポニーテールを揺らしてレジに向かった。
夏休み中のファストフード店は、10代の溜まり場だ。カウンターからテーブル席まで、安さと涼に惹き付けられて、軽快な音楽が掻き消されるほどの賑わいだ。
「お待たせ」
「おう。悪いな」
戻ってきた吉田から、Lサイズの紙コップを受け取る。
吉田は向かいのイスに、ちょこんと座り、自分のMサイズのドリンクに口をつけた。
「あのね……嘉山。今日、加賀美クンに会った?」
「――は?」
話が見えない。だが吉田は思い詰めた表情をした。
「嘉山……誰にも言わないって、約束してくれる?」
「だから、何の話だよ」
「約束して」
「……分かった」
「約束、して!」
「約束するよ」
迫力に圧され、内容も分からないのに、勢いで『約束』してしまった。
口約束でも安心したのか、吉田は乗り出していた身をイスに沈めた。
「私……好きなの」
思いがけない告白に、大きくむせた。
「バカ! 嘉山のことじゃないわよ!」
吉田は慌てて否定する。
今の勘違いは、僕のせいじゃないぞ。
「――まさか、ヨウヘイ?」
気の強い吉田がパッと頬を染めた。その女っぽい様子にビックリした。
「え……ええっ?!」
「私、1年の時から同じクラスだったの。爽やかで格好いいなあって……それで、野球部のマネージャーになったの」
マジかよ。
僕は言葉にせずに吉田をジッと見ていた。
思い返すと、高1になってからだ――僕を『嘉山』と呼ぶようになったのは。
「お昼過ぎに由美からメールが来たの。商店街の花屋さんで、加賀美クンが薔薇の花束を買ってたって」
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