第8章 夏の終わり

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「お守りは、もう持っていたらごめんね」 「――いえ、持ってないです。ありがとうございます」 「良かった」  照れたように微笑み、彼女はポーチから同じ袋をもう1つ取り出した。 「これ、陽平君に渡して貰えるかしら?」  差し出した袋をじっと見る。 「すみません、夏美さん。帰ったら、すぐヨウヘイを呼ぶから――アイツに直接、渡してやって貰えませんか?」  彼女の頬が微かに色づいたように見えたのは、光の加減かもしれない。 「……そうね、お礼だものね。それじゃ、お2人で家に来て貰える?」 「――え、僕も?」  夏美さんは、にっこり笑った。  9月の半ば――夏美さん家のコスモスは3分咲きになっていた。 -*-*-*-  僕からの電話を受け、驚くべき速さでヨウヘイは駆けつけた。 「お前、飛んできたんじゃねーの?」  冷やかしてみるものの、実際、ヨウヘイは汗ひとつかいていないどころか、ほとんど息も乱していない。 「ブランク開いても、元レギュラーの外野手をナメんじゃねーぞ?」  気分を害することもなく、不敵にニヤリとした。  そうだった。守備には定評があったんだよな、コイツ。 「分かった、分かった。夏美さんを待たせんなよな」 「おう、行くぞっ!」  ヨウヘイは僕を引きずらんばかりの勢いで、歩き出した。  夏美さんは、笑顔でリビングに迎えてくれた。 「わざわざ来てくれて、ありがとうね」  カルピスなのか、氷の浮いた白い液体が入ったグラスを3つ、白いテーブルに置く。  僕らのために用意してくれたのかもしれない。 「いえっ! 夏美さん、お元気になられたんですね!」  白い歯を見せたヨウヘイは、ソファで90度に姿勢を正す。 「ええ……ありがとう。この前は、ごめんなさいね、陽平君」  やっぱり、夏美さんはどこか違う。  本来の彼女を僕は知らないが、これまで纏っていた儚な気な……守りたくなるような雰囲気がない。代わりに、気丈さが全面に感じられる。 「そんな、オレの方こそ不躾で、すみませんでした」  夏美さんは、柔らかく微笑んだ。 「さっき――マモル君にも渡したんだけど、これね、お見舞いに来てくれたお礼です」
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