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「お守りは、もう持っていたらごめんね」
「――いえ、持ってないです。ありがとうございます」
「良かった」
照れたように微笑み、彼女はポーチから同じ袋をもう1つ取り出した。
「これ、陽平君に渡して貰えるかしら?」
差し出した袋をじっと見る。
「すみません、夏美さん。帰ったら、すぐヨウヘイを呼ぶから――アイツに直接、渡してやって貰えませんか?」
彼女の頬が微かに色づいたように見えたのは、光の加減かもしれない。
「……そうね、お礼だものね。それじゃ、お2人で家に来て貰える?」
「――え、僕も?」
夏美さんは、にっこり笑った。
9月の半ば――夏美さん家のコスモスは3分咲きになっていた。
-*-*-*-
僕からの電話を受け、驚くべき速さでヨウヘイは駆けつけた。
「お前、飛んできたんじゃねーの?」
冷やかしてみるものの、実際、ヨウヘイは汗ひとつかいていないどころか、ほとんど息も乱していない。
「ブランク開いても、元レギュラーの外野手をナメんじゃねーぞ?」
気分を害することもなく、不敵にニヤリとした。
そうだった。守備には定評があったんだよな、コイツ。
「分かった、分かった。夏美さんを待たせんなよな」
「おう、行くぞっ!」
ヨウヘイは僕を引きずらんばかりの勢いで、歩き出した。
夏美さんは、笑顔でリビングに迎えてくれた。
「わざわざ来てくれて、ありがとうね」
カルピスなのか、氷の浮いた白い液体が入ったグラスを3つ、白いテーブルに置く。
僕らのために用意してくれたのかもしれない。
「いえっ! 夏美さん、お元気になられたんですね!」
白い歯を見せたヨウヘイは、ソファで90度に姿勢を正す。
「ええ……ありがとう。この前は、ごめんなさいね、陽平君」
やっぱり、夏美さんはどこか違う。
本来の彼女を僕は知らないが、これまで纏っていた儚な気な……守りたくなるような雰囲気がない。代わりに、気丈さが全面に感じられる。
「そんな、オレの方こそ不躾で、すみませんでした」
夏美さんは、柔らかく微笑んだ。
「さっき――マモル君にも渡したんだけど、これね、お見舞いに来てくれたお礼です」
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