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僕は――何故か、予感していた。
神社のお守りを渡された時、何だか夏美さんを遠く感じていた。何かを心に決めたような潔さすら、彼女には漂っていた。
「陽平君も、マモル君も、大切な時期でしょう? 私なんかに関わっては、だめ」
そして、夏美さんは泣きそうな瞳で、とびきりの笑顔を僕らに向ける。
「あなた達は素敵な子だから、ちゃんと前に進みなさいね」
命令口調で大人振り、彼女は僕らを無理に突き放そうとしているようだ。
「――分かりました」
意外にも、ヨウヘイはきっぱりと答えた。僕を背にして、彼は夏美さんに向き直る。
「オレ、ちゃんと受験勉強して、大学生になります。そしたら、コスモスが咲いて無くても、ここに来ます!」
『好き』という恋心を告げなくとも、告白したも同然だ。
夏美さんはちょっと眩しそうにヨウヘイを見上げた後、
「ありがとう。気持ちだけで充分だわ」
俯いて、首を横に振った。
「いえ、これだけは譲れないです。オレ、絶対に来ます!」
いつの間にか頼もしくなった広い背中。表情は見えずとも、ヨウヘイの真剣さが滲み出ている。
「陽平君……」
「夏美さん、お守りと栞、ありがとうございました。大切にします」
長身をペコリと折り曲げ、一礼した。
それから、くるりと僕を振り返った。
「帰ろう、マモル」
「ああ……」
勢いで頷いたが、リビングに戻り掛けたヨウヘイを置いて、僕は立ち止まる。
「夏美さん、1つだけ約束してもらえませんか」
「――え」
「僕らに黙って、どこかに引っ越したり……消えないって、約束してください」
この約束は、ヨウヘイのため――という思いもあるが、何より僕の中の嫌な予感を打ち壊したかったからかもしれない。
「消えないわ」
一度目を伏せた後、夏美さんは真っ直ぐに僕を見つめた。
戸惑いの消えた、強い意志が見て取れた。笑顔はなかった。
僕は、その瞳を信じたい――そう思った。
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