第10章 母と息子

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 健康優良児を絵に描いたようなヨウヘイが、学校を休んだ。  鬼の撹乱――ならいいが、タイミングとしては夏美さんの噂とリンクしている可能性が高い。  普段、ニブイ所も十二分にあるが、あれで繊細な面もある。こと、夏美さんに関しては、心無い噂に深く傷付くに違いない。 「――吉田、帰りアイツの家寄るけど……来るか?」  放課後、掃除の担当場所に散る途中、廊下で声を掛けた。 「ありがと……でも、不自然だわ」  吉田は足を止めず、僕の少し前を歩きながら答えた。  今日1日中、彼女の表情は暗かった。誰もいないヨウヘイの席を眺めて、ため息を付いている姿を何度も見た。 「――分かった。それじゃ……」 「夜、電話していい?」  振り向かずに、早口で聞いてきた。 「え、あ――うん」  僕の返事を待ってから、吉田は階段を駆け上がった。彼女の掃除担当場所の理科準備室は、階上にある。 「ありがとね、嘉山」  見上げていた僕に、踊り場の所でちょっと微笑んで、駆けて消えた。  ヨウヘイを想って心を乱している吉田は、何故か酷く危なかしく見えた。 -*-*-*-  帰り道を遠回りして、『ビューティーサロン・カガミ』のドアを開ける。  ガラス張りのドアが、カランカランと来客を告げた。 「こんにちはー、ヨウヘイいますか?」  ご近所の見知ったオバチャンが、鏡越しに週刊誌から顔を上げる。  多分、オバ友会のメンバーだから、ちょっと会釈した。  店の奥のシャンプー台で準備をしていた、ヨウヘイのおばさんが振り向いた。 「あらっ! マモル君!」  ヨウヘイのバカスピーカーは、おばさん譲りだ。  大きな通る声を上げ、おばさんは僕に向かって駆けてきた。 「ちょっと、こっち上がって!」 「……えっ?! は、はい……?」  グイグイ肩ごと抱えるように僕を掴むと、店の奥――住宅に繋がるドアの中に押し込んだ。慌ててスニーカーを脱ぐ。 「須田さん、ごめんなさいね! ちょっと待っててくださいね!」  おばさんは、僕を家に上げながら、店内のお客さんに声をかける。  はーい、と戸惑った声が返ると、待つか待たずかの内にドアを閉めた。
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