第10章 母と息子

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「座って、マモル君」  勧められるがまま、リビングのソファに腰を降ろす。  おばさんは、冷蔵庫からコーラのペットボトルを僕に渡した。 「このままで、ごめんなさいね」 「いえ、ありがとうございます」  ペットボトルを受け取ると、おばさんはダイニングの椅子にストンと座った。何か、力の抜けた様子が気になった。 「マモル君、今日、陽平に会ってないのね?」 「……はい、アイツ休みだったんで来たんです」  おばさんは悲しそうに目を細めた。 「あの子、夕べから帰っていないのよ」 「えっ?!」 「……夕べ、ちょっと……喧嘩したのよ」  言いにくそうに、おばさんは口籠る。  ヨウヘイの家は、早くに離婚して、母1人子1人だ。女手ひとつで苦労してきた母親のことを、ヨウヘイは人一倍感謝している。  アイツが地元の大学を志望しているのも、実家から通えることと、母ちゃんを1人にしないようにという気持ちがあるからだ。 「……喧嘩、ですか」 「昨日、警察がうちに来たの。マモル君も知っているかもしれないけど――」 「隣町の事件の……聞き込みですか」 「……ええ、そうなの」  僕が先回りして答えると、少しホッとしたように息を付いた。 「それで、私が早川さんの名前を出したら、あの子……もの凄い剣幕で怒って」 「――――」  想像に難くない。  元々、ヨウヘイが夏美さんの噂をどこまで知っていたのかに寄るが……ショックの反動は大きかったに違いない。 「あんな姿、初めてだわ」  いつも明るいおばさんが呟いて、目頭を押さえた。 「ヨウヘイ、手ぶらで飛び出したんですか?」 「――ええ。警察に相談したんだけど、年頃の子どもにはよくあることだから、って……一晩待ちなさいって、動いてくれなかったの」  警察ってそんなものなのか。  親子喧嘩の家出くらいじゃ――事件じゃないと、探してくれないのか。 「心当たりは探したんですか?」 「いいえ……あの子のことだから、夜中にでも帰ってくるかと思って。今日、お客さん帰ったら、お宅に電話しようと思っていたのよ」  なるほど。その矢先、僕の方から来たから、おばさんは驚いたのか。 「僕も、心当たりを探してみます」  ソファから立ち上がる。 「受験の大変な時にごめんなさいね、マモル君」 「いいえ。ヨウヘイは親友ですから」  おばさんは、嬉しそうに笑顔を作ったが、涙が痛々しかった。
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