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「座って、マモル君」
勧められるがまま、リビングのソファに腰を降ろす。
おばさんは、冷蔵庫からコーラのペットボトルを僕に渡した。
「このままで、ごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございます」
ペットボトルを受け取ると、おばさんはダイニングの椅子にストンと座った。何か、力の抜けた様子が気になった。
「マモル君、今日、陽平に会ってないのね?」
「……はい、アイツ休みだったんで来たんです」
おばさんは悲しそうに目を細めた。
「あの子、夕べから帰っていないのよ」
「えっ?!」
「……夕べ、ちょっと……喧嘩したのよ」
言いにくそうに、おばさんは口籠る。
ヨウヘイの家は、早くに離婚して、母1人子1人だ。女手ひとつで苦労してきた母親のことを、ヨウヘイは人一倍感謝している。
アイツが地元の大学を志望しているのも、実家から通えることと、母ちゃんを1人にしないようにという気持ちがあるからだ。
「……喧嘩、ですか」
「昨日、警察がうちに来たの。マモル君も知っているかもしれないけど――」
「隣町の事件の……聞き込みですか」
「……ええ、そうなの」
僕が先回りして答えると、少しホッとしたように息を付いた。
「それで、私が早川さんの名前を出したら、あの子……もの凄い剣幕で怒って」
「――――」
想像に難くない。
元々、ヨウヘイが夏美さんの噂をどこまで知っていたのかに寄るが……ショックの反動は大きかったに違いない。
「あんな姿、初めてだわ」
いつも明るいおばさんが呟いて、目頭を押さえた。
「ヨウヘイ、手ぶらで飛び出したんですか?」
「――ええ。警察に相談したんだけど、年頃の子どもにはよくあることだから、って……一晩待ちなさいって、動いてくれなかったの」
警察ってそんなものなのか。
親子喧嘩の家出くらいじゃ――事件じゃないと、探してくれないのか。
「心当たりは探したんですか?」
「いいえ……あの子のことだから、夜中にでも帰ってくるかと思って。今日、お客さん帰ったら、お宅に電話しようと思っていたのよ」
なるほど。その矢先、僕の方から来たから、おばさんは驚いたのか。
「僕も、心当たりを探してみます」
ソファから立ち上がる。
「受験の大変な時にごめんなさいね、マモル君」
「いいえ。ヨウヘイは親友ですから」
おばさんは、嬉しそうに笑顔を作ったが、涙が痛々しかった。
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