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「後で電話します」
コーラのお礼と共に、僕は『ビューティーサロン・カガミ』を後にした。
友達が少なくはないヨウヘイだが、一晩転がり込める相手と言えば限られている。
そもそもクラスメイトの家に潜んだのであれば、ソイツが僕に学校でコンタクトを取ってくるはずだ。それがなかったということは、クラスメイトの所にはいない、という意味だ。
だとしたら――思い付くのは1ヶ所だ。
陽が傾いてきた。秋分の日を過ぎて、昼の時間が徐々に短くなっている。
いつの間にか、小走りになっていた。
「ヨウヘイ! いないのかー?!」
住宅街の枝道から、神社の境内に入る。
縄張りに戻って来たカラスの群れが夕空を飛びかって、ガアガア喧しい。
「おーい、いるかー、ヨーヘー?!」
社務所をぐるりと回り、夏祭りのメイン会場になった広場まで来た。
木製のベンチに、見慣れた坊主頭が揺れた。
「ヨウヘイ!!」
僕が駆け出すと、ヌッと立ち上がり、黒いTシャツ姿の友人はその場で途方に暮れている。
「――マモル……」
「バカ野郎!」
感情に任せて彼の胸板をどついたら――体格差があるのに、ペタンと呆気なく下草の上に尻餅を付いた。
「――ってぇ……」
「何やってんだよ、お前! おばさん――泣いてたぞ!」
見下ろして、思い切り叫んだ。
ヨウヘイの表情が強張った。
「夏美さんの噂でお前がツラいのは分かるけど! お前、大人の男になりたいんじゃなかったのかよっ!?」
「マモル――」
迷子の仔犬のような瞳で、ヨウヘイはこっちを見上げている。
僕は、大きく息を付いて、気持ちを落ち着かせようとした。
「夕べ、家でも母さんが噂に振り回されてさ……キレかけたけど堪えたよ。お前はホレてる分、僕より腹も立つだろうけど――」
「母ちゃんが、夏美さんを悪く言うのが……許せなかったんだよ」
座り込んだまま、ヨウヘイは俯いた。怒りではなく、悔しさが滲んでいる。
「……悪く?」
「『もっとみんなに溶け込んでいたら、警察に名前が上がったりしないのに』って……溶け込まなかった夏美さんが悪いんなら、受け入れようとしなかった『みんな』だって悪いだろ?」
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