第10章 母と息子

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「後で電話します」  コーラのお礼と共に、僕は『ビューティーサロン・カガミ』を後にした。  友達が少なくはないヨウヘイだが、一晩転がり込める相手と言えば限られている。  そもそもクラスメイトの家に潜んだのであれば、ソイツが僕に学校でコンタクトを取ってくるはずだ。それがなかったということは、クラスメイトの所にはいない、という意味だ。  だとしたら――思い付くのは1ヶ所だ。  陽が傾いてきた。秋分の日を過ぎて、昼の時間が徐々に短くなっている。  いつの間にか、小走りになっていた。 「ヨウヘイ! いないのかー?!」  住宅街の枝道から、神社の境内に入る。  縄張りに戻って来たカラスの群れが夕空を飛びかって、ガアガア喧しい。 「おーい、いるかー、ヨーヘー?!」  社務所をぐるりと回り、夏祭りのメイン会場になった広場まで来た。  木製のベンチに、見慣れた坊主頭が揺れた。 「ヨウヘイ!!」  僕が駆け出すと、ヌッと立ち上がり、黒いTシャツ姿の友人はその場で途方に暮れている。 「――マモル……」 「バカ野郎!」  感情に任せて彼の胸板をどついたら――体格差があるのに、ペタンと呆気なく下草の上に尻餅を付いた。 「――ってぇ……」 「何やってんだよ、お前! おばさん――泣いてたぞ!」  見下ろして、思い切り叫んだ。  ヨウヘイの表情が強張った。 「夏美さんの噂でお前がツラいのは分かるけど! お前、大人の男になりたいんじゃなかったのかよっ!?」 「マモル――」  迷子の仔犬のような瞳で、ヨウヘイはこっちを見上げている。  僕は、大きく息を付いて、気持ちを落ち着かせようとした。 「夕べ、家でも母さんが噂に振り回されてさ……キレかけたけど堪えたよ。お前はホレてる分、僕より腹も立つだろうけど――」 「母ちゃんが、夏美さんを悪く言うのが……許せなかったんだよ」  座り込んだまま、ヨウヘイは俯いた。怒りではなく、悔しさが滲んでいる。 「……悪く?」 「『もっとみんなに溶け込んでいたら、警察に名前が上がったりしないのに』って……溶け込まなかった夏美さんが悪いんなら、受け入れようとしなかった『みんな』だって悪いだろ?」
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