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「オレ、どんな顔して帰ったらいいか、分かんなくてさ……気がついたらここに来てたんだ」
「バカだな、お前。だったら、家に来いよな」
「――――」
顔を上げたヨウヘイに、右手を差し出した。
ちょっと戸惑ってから、僕の手を握ったので、グイと引き上げる。
「……重いよ」
ぼやくとヨウヘイは苦笑いして、立ち上がった。
途端、彼の腹の虫が豪快な音を立てた。そりゃそうだ。ほぼ1日、絶食状態に違いない。
「あ。……これ、やるよ」
ふと、カバンに入れてきたコーラの存在を思い出した。腹には溜まらないかもしれないが、無いよりはマシだろう。
「悪いな、サンキュ」
「いいって。元々、お前ん家のものだから」
「え――」
受け取ったペットボトルをじっと見つめる。
それからキャップを捻ると――ジュワーッとハデな音を立てて、コーラが噴き出した。
「わっ?!」
「あ! 走ったから……ごめん!」
噴いた中身はヨウヘイの手を濡らし、1/3近く減ってしまった。
呆気に取られた僕らだったが、どちらからとなくクックッと笑いが込み上げてきた。
「ちえっ――ひでぇなぁ」
ひとしきり笑い合った後、彼は残りを一気に飲み干した。
「オレ、やっぱガキだ。お前の方が、大人だな」
「そんなことないよ」
ヨウヘイや吉田を見ていて、つくづく思う。
僕はまだ、本当に守りたい人がいないんだ。
ヨウヘイが、大切な母ちゃんを悲しませたように。
吉田が、形振り構わず情報を得ようとしたように。
守りたい誰かのためならば、他の全ての人が傷付いても構わない――そういう感情に振り回された経験がないから、僕は怒りを自制できたのだろう。
「……大人なんかじゃ、ないよ」
繰り返した僕を、ヨウヘイはチラリと見たが、触れずに大きく伸びをした。
「この季節ってさ、夜中は結構冷えるんだぜ。布団が恋しいよ」
おどけたように両手で自分の腕を抱える仕草をしてみせる。
コイツなりの気遣いに、苦笑いで答えながら、
「ちゃんとおばさんに謝れよ」
背中をポンと叩いて、その場から歩き出す。
「おう……。ありがとうな、マモル」
『サンキュ』と言わない友人の言葉がこそばゆい。
隣を歩くヨウヘイは、多分僕よりも数歩『大人』の領域に踏み出しているのだろう。
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