第2章 目的の始まり

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 一度気になり出すと、無視できない。集中力を削がれて、立ち上がった。窓から外を見ると、隣の庭に人影がある。  夏美さんだ。  麦わら帽子を被って、ライムグリーンのTシャツに白いパンツ姿で、庭にいる。  この暑い日に何をしているのかと更に覗くが、隣との境界にあるブロック塀に阻まれて、よく分からない。  ――ザッ……ザッ……  僕は窓を閉めて、机に戻ろうとしたが――そのまま階下に向かった。どうせ気になって、集中できない。だったら……。  ベランダから、狭い我が家の庭に出る。塀からちょっと身を乗り出すと、夏美さんがスコップで土起こしをしているのが見えた。 「――暑くないんですかー?」  ――ザッ………… 「……あ。ごめんなさい、うるさかった?」  気づいた夏美さんは、僕を見て手を止めた。そして首に巻いたタオルで顔の汗を拭く。彼女はほとんどノーメイクだ。 「まだ日が高いのに、熱中症になりますよ?」 「そうね……でも、週末は雨の予報だから、今日の内に済ませたくって」  少しどんよりした空を見上げて、眩しそうに目を細める。  何気ない仕草にドキドキしていた。 「野菜でも作るんですか?」  夏美さんは、スコップを土に刺し、僕に近づいてきた。 「……マモル君、だっけ?」 「え、はい」  突然名前を呼ばれて、ますます鼓動が早くなる。 「前に住んでた人は、余り手入れしていなかったのね。それとも空き家が長かったのかしら」 「そうですね……空いていたのは2、3年くらいだけど、庭は……子ども達が走り回っていたから。ヒマワリを植えていたくらいかな」 「やっぱり。だから土が固いのねー」  彼女はたった今まで耕していた庭を振り返り、ふわりと笑った。 「あの、早川さん」 「夏美でいいよ」 「……夏美、さん」  言い直すとクスッと笑う。小動物みたいな口元で。 「なぁに?」 「あれ――夏美さんのですか?」 「――え?」  僕が指した先には、早川家のベランダがあり、そこには白いテーブルセットが置いてある。  椅子が2脚、テーブルの左右にあり、その左側の椅子に、大きな栗毛色のクマのぬいぐるみが座って、僕らを見ていた。
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