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7月半ば。 日中に温められたアスファルトの熱が残り、密集した建物で更に熱がこもり、熱帯夜と化すこの季節。 娘の香菜を見舞った帰り道だった。 こ洒落たダイニングバーの店を通り過ぎ、表通りから少し外れた先の薄暗い道を歩いていた時、もみ合う形の2人の男女の姿が視界に入った。 一瞬だけ、親子程歳の離れたカップルの痴話喧嘩かと思った。 親子と思わなかったのは、男が女性の身体に過度に密着していたからだ。 でも遠巻きに見て、すぐに女性が嫌がっているのが分かった。 男の方は、つとめて陽気な声で親しげに女性に話しかけている。 何を言っているかまではよく聞き取れなかったが、目に映る男の態度からは紳士的なものは、1ミリも感じとれなかった。 そして、そんな男に女性は完全に身動きを封じられているような格好で、必死で抗いながらもとにかく怯えている様子だった。 男にしてみれば、線の細い女性の抵抗などはどうってことないのだろう。 女性の肩を抱いて、とにかく前へ進もうとひたすら強引に促していた。 その先にあったのは、いかにもというような古びたラブホ。 俺は大きくため息をつきながら、その2人の元へと歩いていった。 見てしまった以上、無視することは出来ない。 「みっともないですよ」 2人から1メートルにも満たない距離から、俺は声をかけた。 目の前の目的に夢中で、俺が後ろからやって来たことに気づいてなかったのか、男の肩が途端に分かりやすいくらいにビクッと震えた。 男が後ろを慌てて振り返ろうとした瞬間、女性の肩を掴んでいた男の右手を、俺は容赦なく捻りあげた。 男の悲痛なうめき声が、人気のない薄暗闇の路上に響き渡る。 無理もない。後一捻りしたら、簡単に男の手首は折れるだろう。その一歩手前まで捻っているのだから、痛い訳がない。 物心ついた頃から大学時代まで、様々な格闘技を習っていた。 今でこそそれらをする機会は無くなったが、やはり身体はいつまでも覚えているようだ。 「警察も既に呼んでいる。どうした方が良いかはいくらその酔った頭でも分かるだろう?」 捻り上げたまま、男にそう告げて押し離す。 実際に呼んでなどいなかったが、逆上せきった男の頭を冷やすには効果てきめんだった。 捻り上げた感覚から、俺には歯が立たないと理解したのか、男はよろけながら捨て台詞を吐くと、一目散に逃げていった。
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